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新しいコト 2017.01.31

世界の美術館を巡るたびに、ここに靴があってもいいと思った 『靴職人 三澤則行』

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下町風景が広がる職人の街、東京荒川区に、世界で負けない靴をつくる職人がいます。
履く人を虜にし、時にその人の価値観さえも映し出す「靴」。現存する最古の靴は東ヨーロッパで発見された紀元前3500年前の革の紐靴と言われているそうです。

生活必需品でながらも靴をテーマにした映画も多く、その人であることまでもとらえてしまう靴。靴職人の三澤則行さんは現在オーダーメイドで高級革靴を製作する傍ら、アーティストとして自分の作品を展開しています。
実用度が高く、普遍的でありながらもファッションの歴史や伝統を受け継ぐ靴のかたち。そのフィールドで新たな自分らしさに挑戦する靴職人の三澤則行さんにお話をうかがいました。
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靴職人だから分かる良い靴の状態

――三澤さん、まずはじめに手作りの靴ってどんな工程で作っていくのでしょうか。

うちの場合はまずお客様からどんなものをつくりたいかヒアリングしながらデザイン画を書いていきます。こんなデザインでつくりたいとか、どういうシーンで履くのかをうかがって、その情報から素材の革も幅広い種類の中から決めています。革は世界最高級品を使っています。

――一般的にわたしたちが知っている革と”世界最高級の革”どう違うのですか?

世界のトップブランドに提供している革の会社のものをイタリアやフランスなどから輸入して、その中で一番いいグレードのものを仕入れます。いちばんいいグレードのいちばんいいエリアしか使用しません。革の中でとれるだけとって生地を使うのではなく、革の中で一番キメが細かくしなやかな牛のおしり部分を使って1足や2足分しかとりません。牛からとった皮はタンナー(※1)が鞣します(※2)。最高の原皮(※3)を使い、鞣し方もとても丁寧ですね。

※1 「皮」は「鞣されていない、毛のついた状態の生の表皮」であり、「革」は「皮を鞣して腐ったり固くなったりしないように加工したもの」
※2 加工していない材料の革
※3 動物の生皮から毛や脂肪などを取り除いて処理し、耐久性・耐熱性・柔軟性をもたせること

――限定された箇所を選び、希少さやプロの加工があるんですね。履き心地はどう違うんですか?

いい革だと何年も履いていった後にも革がツルッときれいな状態なんです。ブラシをかけるだけでも輝きます。悪い革だと最初は誤魔化して仕上げ、履いていくうちに誤魔化しがバレていくんですね。いろいろ表情が変わっていったり粗が目立ち、カタチ自体が崩れていきます。良い革は何年も履けるどころか、履いていけば履いていく程、いいものになります。
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生地の良さが向上していく素材「革」
いい革靴は裸足よりも気持ち良いもの

――私たち使う側にとって、革製品は使うほど風合いが良いというイメージがあるのですが、グレードの低い革だと手入れをしても限界があるんでしょうか。

どんどん良くなっていくというのは良い革の特徴ですね。でも、世に出ている安価な革のほとんどは、ポジティブにとれば、風合いが出て味があるという表現もできるんですが、実際のところその多くは劣化していると言えます。本当にいい革はすぐに味が出てきたり、表情が変わったりしません。それこそ何十年も持つものですので、少しずつ変化します。僕はもちろん自分で作った靴を履いていますが、足の形を正確にとらえた靴で最高級の革(※4)により、程よい圧力で足が包まれた時、裸足でいる時よりも気持ち良い感覚があります。

※4 「クロム鞣し革」を指す。クロム鞣しとは鞣し方のひとつで食塩や硫酸等でピックルして塩基性硫酸クロムを使いクロム鞣しを行なう。

――裸足より気持ちいい靴の設計はどうやってつくるんですか?

僕は木型の設計や型紙作業はパソコンで行います。ノスタルジックな思いですべて手づくりにこだわっている訳ではありません。この時代にできる最高の靴作りを求めていて、プロセスによってベストな手段を選びたいと考えています。製図用の特殊なソフトを使わず、イラストレーターを工夫して使用しています。お客様にあわせて削った木型ができたら、仮の靴をつくります。この段階でのフィッティングは8~9割ほどの完成度を目指します。実際に履いてもらい合っているか合っていないかを足と革を触って確認して修正点をみつけていきます。
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数年履いたあとの靴の状態を予想する

――修正点をみつける時、特に難しいところはありますか?

はい、お客様が靴を履いてどう感じるのか、そして私から見た作り手としての理想とのバランスが大事です。作り手がぴったりで気持ちいいでしょ?と考えていても、お客様によっては、これまで長い間ブカブカの靴を履いていたら、いきなりピッタリだと足がびっくりしてしまい、気持ち悪くなってしまう場合があります。感覚までは読めないので、ヒアリングでその人がどういう風に感じているのかというのも組み込んでいきます。数年履いた後の靴の状態をこちらは大体予想できるので、お客様にじっくり説明させていただきます。理想を言えば最初はきつめで数年後にベストになるような靴ですね。

――数年後フィットするように考えるのはどんな理由からでしょうか?

私の工房で作る靴は、一生モノなんです。納品時の状態で合っている合っていないということは言いたくなくて。ルーティンとなる靴のストックの数や毎日履くか履かないかなど細かい部分を聞いて、どのように馴染んでいくのかもすり合せながら考えます。調整して足に合った形の木型に沿わせて牛革を合わせ、ぐいぐい引っ張って変形させていき、釘を打ち縫い上げていき靴が完成します。

靴は木型が足に合うかが重要。めぐり合わせの運

――実際に三澤さんのところへ来られる方はどんな方が多いですか?

足に合う靴に出合っていないとおっしゃる方に来ていただくことが半分以上です。自分に合った既製靴を履くことができるかどうかは、価格に関係なくめぐり合わせの運。つまり木型が合うかどうか重要なんです。

あとは基本的には日常使いとして履く方が多いです。自分だけの靴を体感してみたいという方。プレゼントで選ばれる方も多いですよ。その場合にはサプライズはできず、一緒に来店いただくかたちになるのですが。
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靴づくりに憧れて
仙台から東京・浅草に通う大学時代

――そもそも、三澤さんはどんなきっかけで靴職人になったのですか?

僕は高校生くらいに革靴に目覚めました。最初は革靴ってクラシックな感じがかっこいいなって単純に思っていました。当時はトリッカーズのオーバーサイズを履いていて、履き心地に惹かれたとかではなくて訳も分からずとにかくかっこいいと思って履いていたんです。

――まずはものづくりしたいというより、靴好きの青年だったんですね。

“履きたい”という気持ちからはじまりましたね。革靴の手入れをするのも好きでしたし、手入れの仕方も知らなかったので毎日手入れをしていました。本当は埃をはらうブラッシングくらいで十分。クリームを入れるのは月に1~2回くらいなのに。
そんな高校時代を経て大学のときは高級な革靴店にも通うようになり、そこの店主の人が好きでよく話しに行くようになっていました。振り返ってみると当時そのお店で一足も買ってはいないんですが、だんだん就職や将来のことも相談するようになって、そのうちに「靴作り」という言葉がポンと出てきて、「これだ!」と思い、そのまま職人になったという感じですね。靴をつくる発想って普通あまりないですよね。
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東京の浅草は日本の靴の産業の中心地で、大学在学中にも2年間くらい仙台から浅草に通ってメイカーで現場を見させて貰ったりしていろいろな靴作りを学びました。それから同じ浅草にある靴の学校で学びました。靴の学校を卒業と同時に東京の靴工房で4年ほど修行し、そのあと次のステップへ行くためにヨーロッパへ行きました。
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自分が靴のかたちをどこまで表現できるのか
量産でなく完全に純粋な手づくりのウィーンに学ぶ

――日本と海外では靴づくりの文化は異なるんですか?

雰囲気や方向性は違いますけれど、靴の製法は大きくは変わらないです。靴はイギリスやフランス、特にイタリアのイメージがあると思うんですが、ヨーロッパの東に行けばいくほど知られていない靴の工房が多くて面白いです。この間、ポーランドの靴工房に行ったんですけど、独自の進化のかたちをしていて、作り方が完全に純粋な意味での手づくりなんですよ。

――修行先にウィーンを選んだのはなぜですか?

僕は靴をやりはじめたころから感覚的にウィーンに行ってみたいいうのがずっとあったんですが、ウィーンの靴が素晴らしい理由に過去ハスフブルグ家という王室があって靴が栄えた歴史があり、貴族が惜しみなく職人にいい靴つくらせていたんです。そのアーカイブをウィーンではたくさん見ることができますし、伝統の工房が残っている。ウィーンはヨーロッパの中央と東の境目ぐらいにありますが、やはり独自の進化をしていて、靴のスタイルも面白かったですね。

――職人は手づくりにおける同じマインドの職人に惹かれるものなんでしょうか。

そうですね。ウィーンの靴のスタイルも好きだし、ハスフブルグの芸術に惹かれるものがありました。と言っても、イギリス、ドイツ、フランス、日本の靴があるとしたら、一般の人はどれも区別しにくいものです。そういう細かいレベルの違いではありますが、雰囲気、スタイル、田舎臭さなどの良さがウィーンの靴にはあるんです。田舎臭いんだけれども、王室の歴史があり、華やかさがあって、優雅さが同居しているんです。だからちょっと装飾的。
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人に教えることはいい意味でプレッシャー
凄く高いレベルにいなきゃいけないモチベーション

――三澤さんはご自身の作家活動も盛んにされていて、シューズアーティストとしてそのアートは国内外で高い評価を得ていらっしゃいます。アートワークのひとつとして靴を考えるとき、どんなところからインスピレーションを受けるのでしょうか?

僕が最初に靴がいいなと思った大きな理由に靴の造形美があります。先程までの、一生モノの靴としての話とは違う意味で、単純に靴のかたちが好きです。なので作品をつくる際は、靴のかたちをどこまで表現できるのか考えています。履くのを抜きにしてその部分を追求したいなと思ったんです。靴という概念をキープしつつ、どういう表現ができるのか。

――なぜ、どうしてそれを思ったのでしょうか?

美術館を巡るたびに、靴がここにあってもいいと思ったんですよね。工芸品として靴があってもいいのではないかと。豪華な食器とか宝飾、工芸品の展示を見る度にそう感じていて、美術的な感性をもっと間近で学びたいと思って革工芸の世界に入り、皮革工芸師のもとで学びました。いい靴つくるには、もっと学ばなければならないと思って。

――学ぶ一方、三澤さんは自身の工房やいろんな国で精力的に教えることをされていらっしゃいますよね。三澤さんにとって教えるということはどういう意味があるのでしょうか。

教室で教えたり、各地で講師をやっている理由は沢山あるんですけど、まず最初に教えるのが好きです。そういえば昔、先生になりたいと思っていたくらい人にものを教えるのが好きですね。教えることって勉強になります。修行時代にも講師のアシスタントをさせてもらいました。今と近い現場にいて、その時に感じたのは、人にものを教えるのはすごく大変だし、人に教えるには自分がどんだけ知らないといけないんだろうと。当時は突然の質問やアクシデントに対応できない時が多々ありました。人に教えることは自分自身いい意味でプレッシャーというか、すごい高いレベルにいなきゃいけないというモチベーションになります。完璧なものづくりを常にしなくちゃいけないし、それを教えなきゃいけない。自分のスタイルに偏ってしまうと教える人として良くないし、靴をなんでも知って、どんなことも対応していく。僕自身それが好きだなとも思います。

――いまの三澤さんがこれを成し遂げたいと思っている目標はありますか?

来年にニューヨークのギャラリーで個展をやる予定が決まり、いまはもうその作品づくりモードです。海外での初の個展を、しかも憧れのニューヨークのチェルシーというエリアでやるので、一生に一度のチャンスだと思っています。以前からニューヨークで個展をやりたいと言い続けていたら話がどんどん進んだ、という感じです。それを成功させて自分の靴をいろんな人に見てもらいたいと考えています。僕がつくっているものがヨーロッパのテイストなので、クラシックとは無縁なニューヨーク。モダンアートの最先端エリアで新しい見せ方が可能だと思います。今まで以上にインパクトを大事にしていきたいです。
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靴職人、シューズアーティスト 三澤則行

宮城県出身、1980年生まれ。手製靴メーカーで修行した後、ウィーンに移住し、ウィーンの老舗靴工房をはじめヨーロッパの靴づくりを学ぶ。帰国後、創作の幅を広げるために日本の皮革工芸師に4年間師事。2010年にInternational Efficiency Contest of Shoemakers(ドイツ国際靴職人技能コンテスト)にて、金メダル、名誉賞を両賞受賞。2015年には第33回 日本革工芸展「文部科学大臣賞」受賞。

記事/REALJAPANPROJECT
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REALJAPANPROJECT
REALJAPANPROJECTは日本のものづくり・地域産業のブランドづくりをサポートするプロジェクト。
“日本のものづくりをもっと身近に”という想いから、2009年にプロジェクトを発足し、日本各地のものづくりの現場に足を運びながら、ものづくりの本質を未来へとつないでいきます。

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