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取材 2017.06.03

100人100色ー介護中こそ仕事が不可欠。シングル介護の経験を活かし、家族介護で悩む人を支えたいー橋中今日子さんのお話

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それぞれの立場、個々の考え方によって「働く」ことへのスタンスは異なります。正解なんてありません。
「100人100色」では、100人の「働く女性」に登場いただき、等身大の姿を語っていただきます。
年齢、環境、キャリア全ての背景が異なる人たちの100とおりの『想いや生き方』の中に、きっとあなた自身にとってのヒントが見えてくるはずです。

今回は、介護者メンタルケア協会代表の橋中今日子さん(46)をご紹介します。
高齢の祖母、要介護5の母、知的障害のある弟を20年以上もひとりで支えてきたという橋中さん。介護うつや介護離職の危機といった経験を活かし、家族介護者のメンタルケアやサポートをされている方です。
活動を始めるまでの経緯や、介護をしている人にとって“仕事”がどんな意味を持つのかについて語っていただきました。

―これまでのキャリアや現在の仕事内容を教えてください

中学3年生のときに、当時42歳だった父が進行性のガンを発症しました。父の闘病、そして知的障害の弟、義母(私の祖母)との関係から、私が幼少の頃からうつ、アルコール依存症だった母の状態が悪化しました。

家族の問題に向き合ったことから、社会福祉学科への進学を選択。弟が養護学校の中等科を卒業した年に、両親は弟の将来のことを考えて、障害がある方とない方が共に暮らす滋賀県の茗荷村(現在はNPO法人化)に、弟を任せました。

それから3年後、父の状態が安定したこともあり、「息子(私の弟)の近くで暮らしたい」と、大阪から滋賀へ移住を決意。姉は大阪に残り、大正10年生まれの祖母、両親、私が茗荷村で暮らし、弟を見守る生活が始まりました。私が大学を卒業した直後でした。

ところが、転居して半年後に父のガン再発がわかり、術後に急変して他界。姉は当時、家族のことに無関心だったので、葬儀の取り仕切りや、母や祖母、弟のケアを、私が一人ですることになりました。

父の死後、理学療法士(リハビリの専門家)の養成学校に入学しました。養成学校時代に母が腰椎すべり症、脊柱圧迫骨折、脳梗塞を発症し、ケアや介護がどんどん大変になっていましたが、なんとか理学療法士の国家資格に合格。高齢の祖母と母、知的障害のある弟との4人暮らしをしながら、平成13年から理学療法士として病院に勤めはじめたんです。
理学療法士として3歳から100歳を超える方をサポートし、やりがいを感じていました。そんな中、平成21年7月、母がクモ膜下出血でほぼ寝たきり状態に。最も重い身体障害1級、要介護5と認定されました。

家事を手伝ってくれていた祖母に、そのころから認知症の症状が見られるようになっていました。一気に介護、家事、仕事がのしかかったんです。介護うつや介護離職の危機を経験したことが、心理学、カウンセリング、コーチング、コミュニケーションについて学ぶきっかけとなりました。

新しく学んだことは、職場との関係改善や介護にも役立ち、その経験や情報をブログ「介護に疲れたとき、心が軽くなるヒント」で発信しはじめたんです。
3年間で、延べ500件の相談を受け、平成28年に「介護者メンタルケア協会」を立ち上げました。現在は介護に関連した情報発信のほかに、講座やワークショップの開催や、日々寄せられる介護の相談に対応しています。

プロフィール写真
▶︎「介護」をテーマにした講座を、全国各地で開催
 

―あなたにとって「働くこと」とはどういうことですか?

生きるために不可欠なエネルギー源です。

母や祖母の介護のため、介護休業を取った際、仕事を続けているときの方が、たとえ時間に追われていても、精神的にも身体的にもストレスや負担が少なく感じました。
仕事を休んでいる間は、時間に余裕がありましたが、家族で過ごすだけでは、達成感や満足感が得られませんでした。何よりも変化や人と対話といった外部刺激がないことで、孤独を感じるだけでなく、自分のエネルギーが減っていく感覚がありました。

休んでみて初めて、仕事から金銭以上に、生きるための活力を得ていたことに気づくことができました。この経験から、仕事は自分を成長させてくれるものであり、生きるために不可欠なエネルギー源であると感じています。
仕事で様々な課題に取り組むことで、一人では無理でも、周囲の人に協力してもらって解決できることを体感できます。人と人とのつながりを生む場所が仕事です。自分にとって、その場所が不可欠なものだとわかりました。

―これまでにぶつかった壁はありますか?そしてどう乗り越えましたか?

母がくも膜下出血で重度障害に陥ったときのことです。「これ以上の特別扱いはできない」と、職場から退職勧告の一歩手前を受けるほど、関係が悪化しました。

そうなって初めて「癌で父が他界した後、一人で家族3人を介護していること」「仕事を辞めるとお金に困ること」を職場に相談できたんです。
それまでも話しているつもりでしたが、何にどう困っているかを具体的に相談していなかったために、周囲に理解されていなかったのだと気づきました。また、「お金に困るなんて言えない!」「助けてと言えない!」と思い込んでいたのですが、伝えることで周囲に協力してもらえると気づけました。

―これまでで一番忘れられない仕事のエピソードをお聞かせください

独立するために病院を辞めることを話したら、介護休業をとった直後に「休まれると迷惑です!」と言っていた後輩から、「橋中さんがいつでも常勤で戻ってこられるように頑張ってきたのに」と怒られたんです。でも、介護している人を応援していきたいと話したら、次の日には、「応援しています!」と言ってくれて。
うれしかったし、驚きました。介護休業をとってから3年の間、私が仕事と介護の両立ができるよう、ずっと応援してくれていたんです。

今、前職場の上司や同僚たちは、「介護者メンタルケア協会」の活動を応援してくれています。

それまで介護も仕事も「自分一人で頑張らなきゃ」と思っていました。また、一人で頑張っているつもりでしたが、それは思い込みだったと気づくことができました。たくさんの人に助けてもらえたと実感できたからこそ、今、介護の問題に直面している方々に、「もっと周囲を信頼して、助けてと言って!」というメッセージの発信ができています。

―働いている時の貴方を「色」に喩えると?その理由は

焚き火のようなオレンジかかった赤。

青い高温の炎は、エネルギー値は高いけれど、周囲の人は近づけません。焚き火にも十分なエネルギーがありますが、周囲に人が自然と集まり、手をかざし、談笑します。そんな場や時間を作りたいと感じて、介護者メンタルケア協会の活動を始めました。
人が集い、そこから何かが生まれるきっかけになれればと思っています。

―今後、あなたがありたい姿と、そのために努力していることがあれば教えてください

悩んでいる人に寄り添い、その人が自分の力で歩んでいく様子を、ただ見守る人でありたいと思っています。

悩んでいる人を見ると、アドバイスをしたくなるものです。しかし、本当に悩んでいるときに、アドバイスされると「苦しさをわかってもらえない」と感じて、聞き入れることはできません。
アドバイスだけではありません。「わかる、わかる!私もさあ…」と同調したり、聞き手が自分の話を始めたり、「そんなの気にしなくてもいいよ」と話を中断したりして、「聞いてもらえた」と感じられず、相談者は苦しい気持ちのままでいることがとても多いのです。

「わかってもらえなかった」と言う経験が積み重なると、「こんなこと話せない」「どうせわかってもらえない」と、私たちは心を閉ざしてしまいます。
アドバイスでも、同調や同情でもなく、「ここ(この人)なら大丈夫!」「話していいんだ!」と、安心できる場づくりができ、横に寄り添って本当の「共感」ができる人でありたいと思っています。そのためにも、心理学やコミュニケーションに限らず、様々なことを学び続けて、成長していきたいと強く思っています。

―あなたなりの息抜きやストレス発散の方法を教えてください

「疲れがたまってきた」と思ったら、水族館に行くことにしています。

同じ水槽の前で、ぼーっと立ち尽くす時間がたまらなく好きです。目的や目標を達成しない時間、一見無駄と思える時間を、1ヵ月に1回は作るようにしています。少し元気があるときは、ディズニーシーでパーク内をボーと歩きます。アトラクションもショーも見ず、ただ、夕暮れの風景を見ていると、ほっと一息できるんです。

日常生活でのストレス発散は、散歩やランニング。考えが行き詰まると、1分でもいいので、外に出て、家の周囲を散歩するようにしています。体を動かすことで、思考が整理されたり、アイデアが浮かんだりすることが多いから。ランニングも、「ごみ捨て場までダッシュ」「家までの最後の10メートルを走る」など、ゲーム感覚で楽しんでいます。本当に時間がないときは、駅の階段を早足で上がるなど、心拍数を上げることで、リフレッシュしています。

写真1
▶︎友人に誘われて昨年からマラソンを始めました。と言っても5キロコースですが。超初心者ですが、楽しんでいます。

滋賀から東京、福岡、沖縄と、新幹線や飛行機での移動が多くなり、また自宅では机上の作業が多く、体を動かす機会がなくなるため、移動の時間内に工夫しながら楽しんでいます。
悩んでいるときも同じです。体を動かすことで、悩みの袋小路から脱出できたり、ひどく落ち込んでいても、気分を変えたりすることができます。

―生活の中でのこだわりがあれば教えてください

夕日や夕暮れ時の空を見るなど、自然の変化に目を向けることです。

写真2
▶︎近所の夕焼け、夕暮れ時の風景

田舎なので、家の周囲は田んぼしかありません。4月下旬から5月下旬は、田んぼに水が入り、水面に夕日が映り出されて、本当に美しい光景を毎日見ることができます。仕事で滋賀を離れると、時間に追われて季節の変化に気づかないまま、走りまわっていることが増えてしまいます。
ですから、街路樹の変化や公園の花の様子、空や雲の動きを見て、季節の変化を感じ、美しいものを見たときに心が動く感覚を取り戻すことで、自分をリセットしています。

―幸せだと思う時間や瞬間はどんなときですか?

美味しいコーヒーを飲んでいるとき。仕事が終わって飲む、一口目のビール。

写真3
▶︎大好きなカフェでコーヒーをいただく、至福の時間

仕事の前は緊張して飲めないし、食べられなくなります。仕事の後や合間にコーヒータイムを作ったり、自分へのご褒美にビールを飲んだりするのは「よく頑張った!」と自分を褒める時間。とても幸せです。

写真4
▶︎代々木上原にある「坂の上ホタル」。手作りハムやソーセージのほか、野菜をふんだんに使ったお料理が多いのでお気に入りです

あとはくたくたに疲れて、お布団に入る瞬間ですね。寝つきは良くお布団に入った瞬間に眠れるのですが、その眠りに落ちるときがとても心地よく、至福の瞬間です。

―自分の人生で一番大切にしていることはなんですか?

人と出会うこと。会いたい、行きたい!と思った時にはすぐに行動すること。笑うこと。

全国各地で開催している講座やワークショップでも、笑えて楽しい時間になるように工夫しています。笑いこそ、人生を支えてくれるものだと思っています。

うつ病からアルコール依存症になった母のケアを、3歳頃からしていました。“父の死”、“母が病から重度身体障害になる”、“頼りにしていた祖母が認知症になる”、“退職勧告される一歩手前まで職場の人間関係が悪化する”…など、本当にいろいろなことがありました。
困難な状況のとき、大きく人生が変えられたと思えたのは、人との出会いや、新しいものを学ぶために、家から出たことでした。辛いときほど、人に会いたくなくなりますし、何か新しいものを学ぶ気力は無くなってしまいます。
だからこそ、何か困難な出来事が起こったときほど「助けて!」と伝えたり、誰かに会って話を聞いてもらう事や話を聞く事を大切にしています。

そして何よりも大切なのが、「自分が幸せに生きる」のをあきらめないこと。どんな困難な状況でも、自分が幸せであること、幸せになっていくことができると信じて、一歩ずつ進んできましたし、これからもそうありたいと思っています。

―これからチャレンジしたいことはありますか?

高校生たちと「介護」「福祉」を通じて、「幸せな生き方」「働き方」を発見し、一緒に情報を発信していくこと。沖縄と徳島の高校生たちに協力してもらう予定です。

知人の紹介で、地域企業と連携して、新しいビジネスを立ち上げたり、介護、福祉を通じて「幸せな生き方」を提案したりしている高校生たちと出会いました。とてもエネルギッシュで、挑戦と失敗を繰り返しながら、社会がよりよくなることを目指している彼らからたくさんの刺激をもらったんです。
医療、介護、福祉の分野では、人手不足や過剰な労務など、様々な問題があります。次世代を担う高校生たちと一緒に、そんな分野をより良いものにする土台作りをしていきたいと思っています。

————————————
家族3人のシングル介護や作業療法士としての仕事の両立に悩んだ経験から、立ち止まるのではなく新しい挑戦をスタートさせた橋中さん。柔らかな関西弁で語られる「どんな困難な状況でも、自分が幸せであること、幸せになっていくことができると信じて、一歩ずつ進んできました」という言葉が、とても力強く感じられました。彼女が作る焚火のような温かな場は、介護に直面している人々を助け、そして介護の持つ暗いイメージを変えていくに違いありません。

 
取材・記事/
いろんな女性の働く・暮らすを知ること 『100人100色』は、SAISON CHIENOWAとケノコトの共同記事です。

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