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取材 2017.08.17

100人100色―手製のノートに込めた世界各国の美しい文化。ハードカバーノートを製作する作家ー中澤陽子さんのお話し

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それぞれの立場、個々の考え方によって「働く」ことへのスタンスは異なります。正解なんてありません。
「100人100色」では、100人の「働く女性」に登場いただき、等身大の姿を語っていただきます。
年齢、環境、キャリア全ての背景が異なる人たちの100とおりの『想いや生き方』の中に、きっとあなた自身にとってのヒントが見えてくるはずです。

今回ご紹介するのは、東京都新宿区在住の中澤陽子さん(33)です。画材店や文具店での勤務を経てノート作家として独立。手製のハードカバーノートを製作・販売する「テルコ雑貨店」を立ち上げました。日本各地や世界中を旅して美しい素材を求め、すべて手作業でノートを製作する中澤さん。製本を独学で学び、今ではそのクオリティの高さが高く評価されている中澤さんの、ノートにかける想いを伺いました。

——お住まいはどちらですか?

東京都新宿区です。住んでいる自宅を住居兼アトリエとして使っています。交通の便が良いので、さまざまなイベントや取引先の場所へのアクセスもしやすく、便利な土地です。現在の仕事柄、都心近郊だけでなく少し離れたイベント会場などにも足を運ぶため、立地が良いことは最低条件になっています。海外へ出張で出かけることも多いため、空港へのアクセスも大切です。

将来的には、さまざまなジャンルの作家さんと共同で、大きなスペースをシェアしながらそれぞれのアトリエとして使い、多くの交流を持ちながら活動をしてみたいなと思っています。ジャンルの異なる作り手と接することで、また新しい価値観や見方が増え、今の仕事のさらなる発展に活かせるのではと考えています。

−−これまでのキャリアについて教えてください。

世界堂という大きな画材店にて額縁コーナーを担当し、その後にアパレル職を経てから銀座の伊東屋へ移り、万年筆をはじめとした高級筆記具やギフトの販売を担当しました。それらで得た経験や体験を活かして、現在は世界各国の素材を表紙に用いて、一冊一冊手作業でハードカバーノートを製作・販売する作家として、テルコ雑貨店と冠して独立しました。

額縁の担当では、細かな手仕事や、中に組み込む作品と額縁のバランスなど美的センスを養え、アパレル職では流行を察知する感覚や色柄の合わせなどの大切さを学び、筆記具販売では顧客に対する真摯で丁寧な接客と文具に対する細かな知識を得られました。

全てが糧になって、今のノートを作るという仕事につながってきたと思います。
中のノートを作り、表紙を作り、製本部分に至るまでを一人で手作業で行い、他には見ることのできないノートを作っています。見て愉しい、触って愉しい、使って愉しい。日々を彩り、世界を旅するように心躍るノートをお届したいと思っています。

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▶テルコ雑貨店のハードカバーノート。
 

——家族構成について教えてください。

現在は独身で、パートナーとともにテルコ雑貨店の活動をしています。

−−これまでにぶつかった壁はありますか?

ノート作家として独立を決意した頃は、ノートを作ることに関しても完全な独学だったため、作品のクオリティを上げることに関しては大きな壁はありました。テルコ雑貨店のように、さまざまな素材を表紙に用いるというのは製本の世界でも珍しいことで、基本的にはNGとされることも多かったです。

それをイチからやり方を模索し、百貨店やセレクトショップでも取り扱って頂けるレベルのクオリティに上げていくのは、とても時間と手間がかかることでした。理屈でやり方がわかっていても、やはり技術的なことは数をこなして乗り越えて身に付くところもあり、はじめのころは「まずは、1000冊作ろう。それだけ作れば、目指すべきクオリティが見えてくる」とパートナーと話し合い、ひたすらに時間をかけて作っていました。根性論のようにも思われますが、職人の修業のようなもので、今思えば大変ですが必要なことでした。

その甲斐あってか、今では製本業者さんや文具店さんも製品のクオリティに驚かれることが多く、「これをよく手作業で出来るね……すごいね」とお褒めいただいています。

今まさに越えようとしている最中なのが、絶対的な知名度の壁です。さまざまなイベントに出展をしたりしながら、地道に知名度を上げて、壁を乗り越えたいと思っています。

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▶表紙の仕立て作業。素材に和紙の裏打ちを施し、そこに芯材を貼り、さらに手作業ですべてを折り込んで仕上げていく。
 

−−これまでで一番忘れられない仕事のエピソードをお聞かせください。

独立をして数カ月のころ(今から見れば、まだまだ未熟なころですが)、手さぐりで活動をしながらも、いわゆるハンドメイド作家の集まる手作り市に出展をしていました。

その中でまだまだ小さな存在だったテルコ雑貨店のノートを、三省堂書店の方が見て下さり、その独自性と面白さを評価し、神保町の本店でフェアを開かせてくれました。まだ初めて1年にも満たないころでしたので、それは驚きであるとともに大きなステップでもあり、忘れられない出来事でした。

今は三省堂書店も雑貨部門などが出来ていますが、まさにその走りのようなタイミングで関われたことは貴重な経験でしたし、書籍や紙製品が好きな多くの方からノートの珍しさや面白さを褒めていただき、「やはりこのやり方は間違っていないのだ」と自信を持てました。

また執筆業の方にも気に入っていただき、そこからの繋がりでさらに多くの方と世界が広がっていくきっかけにもなりました。そういう意味合いでも、その頃の三省堂書店のバイヤーさんとの出会いは、絶対に忘れられません。

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▶代官山のセレクトショップTENOHAでのフェア。
 

−−あなたにとって「働くこと」とはどういうことですか?

もちろんお金を稼ぐことには、大きな意味があると思います。ただ、それだけが目的ではなくて、私しかできないことで誰かの幸せや笑顔を生み出せるのだ、ということに今は大きなやりがいを感じています。

生活のためのお金を優先すれば、額縁を担当したり筆記具の販売をしながらでも、ノート作家は続けられます。でもそこから飛び出して、自分にしかできない事で独立をしよう!というのは、ある意味では今感じているような「やりがい」をどこか求めていたような気がします。

同じ「働く」ことでも、「自分も愉しく笑顔で、そしてそれに関わる人も愉しく笑顔で」という希望は持っていて、今はそれを少しずつですが実現出来ているように思います。個人事業なので、早朝から夜中までものすごくあわただしく忙しい時もあったりしますが、その先にはたくさんの笑顔があるなぁと思うと、ぐぐっと頑張れて愉しく仕事ができています。特に、自分自身が手で生み出したノートでお客様の生活が彩られた瞬間の喜びは、なかなか他には代えがたいものです。

−−働いている時のあなたを「色」にたとえると?

作品の製作をしている時と、お客様と接して販売をしている時で、色が違う感じがしています。製作の時はこう地道に作業を積み重ねていって、熟成させて、良い作品を仕上げるという感覚があって、どこかそれはワインレッドな印象です。深く落ち着いた中にもさまざまな蓄積があって……と言いますか。情熱も強くこもっているので、赤の感じもあるので。

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▶ノート中身の仕立て作業。寒冷紗の補強や花布、しおりなどをつけて仕上げる。

お客様と話をしながら販売をしているときは、オレンジの印象です。販売の時は出来るだけお客様には愉しい時間を過ごしてもらいたいですし、もしかしたらいやなことがあった日でもパッと笑顔になってもらえたらよいなと思っています。だから販売する私も出来る限りの笑顔で(自然と、笑顔になってしまうんですけど)明るく接しているので、明るい元気カラーのオレンジという感じです。

−−今後、あなたが「こうありたい」と思う姿について教えてください。

世界各国の素材を使っているので、もっともっと多くの世界を回れるようになりたいと思っています。今はアジアやヨーロッパの素材が多いですが、きっとオセアニアやアフリカ、南米などにも面白い素材はたくさんあって、それを生み出す文化に触れあいながら素材を選び、面白さをより多くの方にまた届けたいなと感じています。

そのためには、今のノートをもっと多くの方に知っていただかないと!というのもあるので、イベント出展などは頑張っていますが、それだけではなくて外国の方との意思疎通ももっとしっかり出来たらよいなと、英語やフランス語をも出来れば学んでみたいと思っています。

外国の方はその土地に根付いた母国語でお話をすると、とても喜んで仲良くなれて、世界が広がる感覚があります。英語とフランス語は使われている国も多いので、難しい会話は出来なくとも、愉しく外国の方と言葉を交わせるようになりたいです。

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▶イタリア・フィレンツェで、特産のマーブルペーパーを選ぶ。
 

−−これからチャレンジしたいことは?

今はノート作家としてノートの製作と販売を主にしていますが、ノート以外の作品も作ってみたいなと思っています。ブックカバーやシステム手帳カバー、布のバッグなど作ってみたいものはさまざまです。いずれにしても、世界各国の素材を活かした何かをやりたいです。

ノート作家としての活動をもっと知っていただきたいというのもあって、まだまだそこまで手を広げることができないでいますが、時間に余裕がもう少し出てきたら、ひとつずつでも進めていきたいなと思っています。

チャレンジする時には、クラウドファンディングなどを使ってみるのも面白いなと思っています。先日もノートのバリエーションに8mm罫線を加えたいと思い、クラウドファンディングで資金を募りました。ありがたいことにしっかり達成をして、やりたいことが一つ実現出来ました。新しい製品を生み出す時にも、またそういった試みもしてみたいなと感じています。

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▶ノートの中身に使用している紙は、さまざまな筆記具で筆記しやすいものを選んでいる。
 

−−日課や習慣にしていることはありますか?

製作に入ると数週間アトリエにひきこもって製作、みたいなことも多くなってしまうので、意図的に散歩をすることを日課にしています。それに加えて、季節を感じにくくなっては感性が鈍ってしまうので、その季節ごとのイベント(お花見やお祭りや、紅葉やホタル狩りなどなど)は逐一意識をして、時間を割いてでも体感するようにしています。

ノートに使う素材はウールもシルクもあれば、色合いもさまざまなので、素材を選ぶ時にもご案内する時にも季節感は大事で……。そういった広い意味での季節の感性を大切にしています。

あとは、これは職業病に近いですが、巷で歩いている人の服やカバンやアクセサリーなどを見たり、建物の内装や美術館などを見ていても、「あ、この素材はすごく良いな、ノートに使いたいな」とか「これに似た素材を今度探してみよう!」とか、どこにいても何を見ても作品につなげながら考えてしまう癖があります。

−−息抜きやストレス発散の方法を教えてください。

たっぷり寝て、美味しいものを食べること!が一番の息抜きだったりもしますが(笑)。それはそれとして、日本の色々な地域や海外に飛んでは、さまざまな土地の文化や人々と触れ合うのが、仕事でもあり息抜きとストレス発散にもなっていると思います。

趣味と実益を兼ねているというわけではありませんが、面白い素材を!と探し歩いていると、もうそれがすごい愉しみだったりします。その土地によって習慣が違ったり、生地に対する価値観が違ったり、時にはノートを作ってるんだと言うとものすごく驚かれたり(笑)。そうして色々な土地を歩きながら、「その土地の美味しいものを食べる!」ことは忘れずにしていますね(笑)。

−−あなたの生活の中でのこだわりや、お気に入りは?

身の回りの生活のものでも、出来るだけ作り手の顔が見えるような素敵なものを使っていたいという思いがあります。

バッグや食器や衣類などさまざまですが、よく買い物をさせてもらっているのは、南青山のCIRCLEです。テルコ雑貨店のノートも一部取り扱ってもらっていますが、扱っているものは作り手の想いを感じられるものが多く、ジャンルも広いので気に入っています。

また、製作をしている時には水分摂取を忘れないようにするのが大切なのですが、だからこそ飲み物を飲む器は色々と揃えています。ベトナムで買ってきたミンロンのマグカップや北欧はイッタラのマグ(タイカ)やガラスコップ(ウルティマツーレ)、作家の木村香菜子さんやイイホシユミコさんの陶器、石川昌浩さんのガラスなどなど、色々と愉しんで使い分けています。時にはヴィンテージの雰囲気も良いなと古いものも使ったりしますが、色々と多すぎて食器棚がちょっと大変です。

−−幸せだと思う時間や瞬間はどんなときですか?

美味しいものを食べている時が、ダントツに幸せです。日本でもその地域の特色が出た名産を食べてみたり、ジャンル問わず色々なものを食べてみています。
海外に行くときには、その国の名物はもちろんですが、ちょっとグロテスクなものや、地元の人たちが食べるようなところに足を運んでは、「なんで日本人ここにいるんだ?」という目を向けられながら、その土地の美味しさを堪能しています。

実は接客をしている時にも、そういった食にまつわる話をお客様としていると、より話が盛り上がって笑顔になってくださいます。あそこのアレは美味しかった!とかここのソレはかなり独特だった!とか話していると、やっぱり壁がなくなって深く仲良くなれる感じがあります。美味しいものを探して食べるというのはもう、ライフワークみたいなものです(笑)。

−−自分の人生で一番大切にしていることはなんですか?

愉しむこと!です。仕事でもプライベートな時間でも、とにかく目いっぱい愉しむことを心がけています。もちろん、やりたくないことやいやだなぁと感じる瞬間もありますが、その過程なども含めて後から振り返った時に「なんだかんだで愉しかった!」と思えるように。

自分ひとりだけではなくて、周りの友人や知人、仕事で関わっている多くの皆さんも含めて、みんなで愉しくなれたら良いよねと感じています。ビジネスでwinwinみたいな言い方をよくしますが、それって仕事だけではなくて普段の生活でも同じことじゃないかな、と。私もたのしい、あなたもたのしい、みんななんだかんだで愉しい。そんな風になっていけるように、仕事でもプライベートでも動きたいなと思っています。

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一冊一冊に、その土地の豊かな文化が込められたテルコ雑貨店のノートたち。美しいノートの素材となる布や紙は、中澤さん自身が日本や世界各地を歩いて見出したもの。旅した土地の魅力や文化の美しさを一冊のノートに仕立て上げる作業は、中澤さんの語る通り、金銭的な豊かさだけでは得られない充足感に満ちているのでしょう。ノート以外の作品にもチャレンジしたいという中澤さんの作品づくり、これからどんな世界を見せてくれるのか楽しみですね。

 
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いろんな女性の働く・暮らすを知ること 『100人100色』は、SAISON CHIENOWAとケノコトの共同記事です。

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