
〜ものづくりの現場から〜職人インタビュー『隆太窯 中里太亀 / 佐賀県』
日本には、ひとつのモノに情熱を注ぎ、そのモノを生み出す職人さんがいます。彼らの手から紡ぎ出されるのは、そのモノだけではありませんでした。
日本の誇るべきものづくりの現場をすこし、のぞいてみませんか?
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料理への気持ちをあらわす、陶器のうつわ。
旬の食材を使った料理や味わって欲しい自分の料理を、いつもより少していねいにこしらえて、
好きなうつわにそっと盛り付けたら、 その想いがきっと相手にも伝わって、
みんなのこころがまるくなり、元気なパワーが出てきます。
慣れ親しんだいつもの仲間や、もっとお互いのことを話して近しくなりたい相手。
ゆっくり食事をしながら過ごす時間は、何にも変えがたいごちそう。
そんなうつわの時間を楽しみたくなる陶芸家に出会いました。
緑豊かな木々と小川のせせらぎが美しい、のどかな風景のなかに佇む「隆太窯」の陶房。
陶房にいるだけで気持ちがしゃんとして程よい緊張感、ゆったりとした時間の流れを感じます。
今回、佐賀県唐津にある隆太窯の中里太亀さんを訪ねて、太亀さんがつくる焼き物についてお話を伺いました。太亀さんの言葉ひとつひとつから、陶芸への愛を感じました。
――いま、ろくろをしながら持っていらっしゃるへらはなんですか?
これは牛べらと一般的に言われているものです。
有田で使われている道具で、有田ではぬべべらと言います。
――つくるときは、すべてこちらを使われるんですか?
すべてではないですが、このへらと
大きいお皿はこの短いへらを。
湯呑なんかを作るのはちょっと四角いものを。
これは人に作ってもらったんですけど。
――陶芸を始めて最初に手がけられたものはなんですか?
最初に練習するのは、小さなお皿から、
練習をしていくんですけど。
それからお湯呑を作っていきます。
まぁ、うちの場合ですがね。
――モダンな線刻のシリーズ。あの作品はいつごろにつくったシリーズですか?
線刻はそうですね、5、6年前かな。
線刻、井銅くんがおるときしよったか? (太亀さんが唐津弁でスタッフに聞く)
井銅くんがおらんくなって、5年くらい? (お弟子さんが、7年です。)
5、6年前じゃないですかね。もう、時間の感覚が、歳をとってくると。
――作品をみていると、焼き物から料理が想像できるようなうつわの魅力を感じます。それは作り手が料理のことを考えているんじゃないかと。使う用途は意識されていますか?
そうですね。僕もくいしんぼうだし、呑べえだし。
そういうところから、うつわづくりに入ったんで。
ただ、鑑賞陶器というかたちで、うつわをつくっている方もいますけど。
やっぱり、みるだけじゃなくて、使わないと。
陶器って使うことによって、
だんだん艶が出たり、深みが出たり、
してくるものだと思うんで。
なるべく、使って欲しいと、思うんですね。
――太亀さんは、料理をしますか?
料理は最近すこし。
お客さんや友達が来ると、魚屋に行って、魚をさばいたり。ちょこちょこっと。
レパートリーもそんなに多くないんだけど、
料理は好きです。
――ぐい飲みがとてもたくさん展示室にあったので、太亀さんはお酒がお好きなのかな?と
酒は飲みすぎて、しょっちゅう、失敗をします。(笑)
中里家と親交の深い作家のステンドガラスや北欧デザインのランプなどモダンな美しさのある展示室
――太亀さんはもともとお父様が陶芸をしていらっしゃったわけですが、陶芸の世界へ入る直接の理由はなんですか?
僕は、高校の頃まではまだ継ごうと思っていなくて。
親に反発していたのというのもあるけれど、勉強もせずに高校の頃はヨットばっかりやっていて。
大学もヨットで来ないかと言ってくれるところがあったんで、
勉強もせずに、ヨットのちからで大学に行ったんですけど。
大学はヨット漬けの合宿生活の日々で。
自分たちで食事をつくって、キャプテンの号令で、いただきますと言ったら、いっせいに、
もう、かけこむと言うか、ガツガツ食べて、3分とか5分で、食事が終わってしまう。
それが、なんか僕はすごく、びっくりして。
高校までは、毎日毎日、親父が常にお客さんを呼んで、
お弟子さんもたくさんいたから、まいにち大勢で酒盛りで。
それが、高校生の子供にとっては嫌で嫌で。
毎日刺身、それもあじの刺身とかいわしの刺身。
タイとかヒラメはほとんど出てこない。
その毎日が嫌で嫌で、たまらなかったんですね。
ぜったいそういうのは、やりたくないと、思っていたんだけど。
大学に行って、合宿の飯を、犬のえさのような感じで食べると、
たまに家に帰ると、いつものような飲み会があって、
この食事ってうまいなと。
おいしいものを、
季節のものを味わって、
みんなと楽しく食べたいですよね。
当時はヨットのことを、
新聞かなんかで読んで、
それでいいなあと思って、ヨット部に入るんですけど。
――仕事において、いちばん気にかけていることってなんですか?
やっぱり使いやすさがないと、と思いますね。
使いやすいうつわじゃないと、誰も使ってくれないので。
手にとったときの感じだとか、
料理を持ったときのことだとか。
あとは片口とか醤油さしだとかは、
切れが悪いと使いにくいので、
道具としてちゃんと機能性があるということを考えています。
――新しい作品をつくられるときは、どういったところから考え始めるんでしょうか?たとえば、使う側だと、こういった料理をうつわにのせたいと、料理から入る場合があるんですが。
ああ、そうですね。
なんか食事をしていて、
こういう大きさのうつわがあったらいいなと、
そういうのを思いながら考えますね。
あとお店とかに行って、
他のひとが作っているものを、こういうものがいいんだと、
まぁ、気にはかけていますね。
――使うことによって、こういうものが使いやすいということですか。
そうですね。 意外と使わないと、わからないですよね。
――そうなんですよね。 最近、痛感しています。
うちもいっぱい食器ありますけど、
使うやつと、全然使わないやつがありますよ。
そのときは、これが使いやすいだろうと思ってはいるんだけど、
なかなか使わない。使ってくれない。
家内が料理をするとき、使ってくれない。(笑)
――唐津と言えば、釉薬の流れに特徴がある唐津焼がありますが。
そうですね。そう言いますけど、僕は唐津らしいものが少ないですね。
線刻とか鎬だとか。
――それは、何か理由はありますか?
桃山の古唐津も好きですけど、そればっかり使って生活するというのは重すぎる。
自分が使いたいうつわを自分が作っている、という感じなんですけど。
たまには和風な感じで、茶懐石では絵唐津やそういうものもやっぱりいいですが。
ふだんの生活では、もっと軽い感じ。
モダンな感じで使えるのがいいなと思います。
コーヒーも好きだし、ワインも好きだし、
チーズも好きなので。
そりゃあ、絵唐津じゃあ、チーズはのせたくないでしょう。(笑)
――陶芸について、最初にはじめられたときと今で変化はありますか? 年月が経ち変わったものの見方があれば教えてください。
くち当たりとか、くちの厚みとか、
そういうものは、前はちょっと、くちがたっぷりしているほうがいいっていう風にと思っていたんだけど。
まあ、父からもそう習ったし。
でも、グラスのセミナーに参加をしたりして、
いろんな形状で味が違うとか、くちの厚さで違うというのを考えるようになって、
くち当たり、最近はすこしくちが薄くなってきたかなというのはありますね。
――最後に太亀さんがあたらしく手がけたいものはありますか?
最近、中国茶をやっている方と親しくなって、
中国茶を教えている人なんですけど。
その人の影響というか、いろいろ話も面白いんですけど、
中国茶も奥が深くて、中国茶を入れる急須をつくったりします。
いっぱい歴史だとか、いろいろ詳しいことを話されるんですけど、
ほとんど覚えてない(笑)。
でも、中国茶を飲む茶会だとかに行き、中国茶に使える道具などを作っています。
年期の入ったフィルタープレス
泥を流し込むと、水分が布から押出されて脱水することができ、土の再生に使用するそうだ
隆太窯 中里太亀
1965年に佐賀県唐津に生まれる。父、中里隆のもとで焼き物を始める。1995年伊勢丹新宿店にて、個展開催。以降、各地にて個展を開催。 「隆太窯」は、十二代太郎右衛門(無庵)の五男である中里隆氏の隆と十二代太郎右衛門の太の字から名付けられた窯名。モダンさを兼ね備えた焼き物が隆太窯の特徴。おおらかさのあるシンプルで洗練されたかたちは幅広い層のファンを惹きつけ注目されている。
記事/REALJAPANPROJECT
REALJAPANPROJECT
REALJAPANPROJECTは日本のものづくり・地域産業のブランドづくりをサポートするプロジェクト。
“日本のものづくりをもっと身近に”という想いから、2009年にプロジェクトを発足し、日本各地のものづくりの現場に足を運びながら、ものづくりの本質を未来へとつないでいきます。
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