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取材 2016.09.29

100人100色ー自分にも人の心にも灯りを点す。がんを乗り越え一生現役を目指すコピーライター 。ー中山由紀子さんのお話し

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それぞれの立場、個々の考え方によって「働く」ことへのスタンスは異なります。正解なんてありません。
「100人100色」では、100人の「働く女性」に登場いただき、等身大の姿を語っていただきます。
年齢、環境、キャリア全ての背景が異なる人たちの100とおりの『想いや生き方』の中に、きっとあなた自身にとってのヒントが見えてくるはずです。
今回は、東京都目白にお住まいの中山由紀子さん(52)をご紹介。
自らを「カルチュラル・フィットの達人」と表現するコピーライターの中山さん。仕事をしながら治療した乳がんのこと、時代とともに変わっていく仕事の環境のことなど、キャリアを積み重ねていく中で自身にも周囲にも起こった出来事や日常のことを、達人らしい言葉で語っていただきました。

 

-これまでのキャリアと現在の仕事内容、ご家族のことを教えてください

グラフィックデザインのプロダクションにコピーライターとして10年勤めた後、フリーランスになりました。
10人規模の会社だったので、書くことだけをしていれば仕事がまわるという環境じゃなかったんですね。見積も自分で作るし、デザイナーのディレクション、撮影の立ち会い、撮影用の小物の調達までしていました。それが良かったと思っています。
当時はまだMacのソフトでデザインを組む前だったので、写植の指定なんかもしていました。あれだけ忙しそうだった写植屋さんの仕事が無くなっていくのをリアルタイムで見たことは、その後の仕事観や人生観に大きく影響したなと思います。

コピーライティングの仕事としては現在、紙媒体が8割、Webサイトが2割といったところでしょうか。あとは、相談役というか顧問というか、そんな感じのポジションで関わらせてもらっている会社が2社あるので、そちらの会社の社員さんの相談に乗っています。

家族は夫とふたりです。24歳で結婚したので、すでに銀婚も過ぎました。
待ち合わせて、外で食事をしたり飲みに行ったり、休日は一緒に出かけますし、そのスタイルはずっと変わらないですね。夫が勤続30周年で長期休暇がとれたときは、一緒にクルーズにも行きました。

 

-1日のスケジュールや仕事のスタイルを教えてください

フリーランスですから、時間は自由です。タイムカードを押す生活にはもう戻れません。
ただ、夫となるべく生活時間を合わせたいので、朝は7時ぐらいに起きますし、夜は12時前には寝ちゃいます。
うちは夫が早起きなので、毎朝ご飯が用意され、お風呂が沸いて、洗濯機が廻っている状態で、「ご飯ができたよ」と起こされます。
そのご飯を食べて、お風呂に入って目を覚まし、洗濯物を干して、食器を洗って一日がスタートします。

パソコンに向かって集中する仕事は、よほど締め切りが差し迫っていれば別ですが、午前中に終わらせます。午後は映画を見たり、人と会ったり、デパートをぶらぶら見て回ったり。
一時期、アウトプット一辺倒になって、自分が枯渇していく焦燥感にかられたことがあり、仕事は入れ過ぎないように気をつけています。

家で仕事をすることもあるし、気分転換にカフェにパソコンを持っていくこともあります。パソコンとWi-Fi環境さえあれば、どこでも仕事ができる時代になったのはありがたいです。だから、旅先でも仕事ができるんですよね。旅先で仕事をしながら旅を楽しむことも増えました。

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▶海外からのお客様との商談に同席することも。パソコンとWifiがあればどこでも仕事場になる。

49歳のときに乳がんが見つかったんですが、入院中も病院ノマドと称して仕事をしていました。
当然ですけど入院って一種の隔離状態なので、それを体験してから「なんだパソコンさえあればどこでも仕事ができるんだな」って、吹っ切れたんですよね。

 

-これまでで一番忘れられない仕事のエピソードをお聞かせください

49歳で乳がんがわかったとき、仕事関係の方全てに公表しました。
「これからほぼ1年がかりで治療に入ります。仕事はしながらの治療と考えていますが、このまま発注するのはリスクがあると思われたら、遠慮なく切ってください」とクライアントさんにお話ししたところ、どのクライアントさんも「こちらも配慮するから、身体に無理のない範囲でやってください」と言ってくださったんです。
それには本当にビックリしました。

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▶抗がん剤の治療後は主治医に止められていた海外旅行を再開。梨花壁画村(ソウル)で壁画アートの一部に

治療を終えて報告に行ったときに「お帰りなさい。みんな、待ってたよ」と言ってもらったときには、涙が出そうになりました。
仕事って「できて当たり前」じゃないですか。いちいち「ありがとう」と言われることもないですし。必要とされているんだな、と感じた瞬間でした。

 

-今後、あなたがありたい姿と、そのために行っていることがあれば教えてください

わたしね、一生現役でいたいんです。
24時間働けますか!みたいなのは望んでいないけれど、社会との接点は持ち続けたい。そのためには、自分のスキルセットの耐用年数というのはいつも考えています。

コピーライターの仕事って、「日本語」力がメインのスキルです。子どもの頃から読書量では人に負けない自信があり、そこを武器に生きていこうと決めたんですが、時代の流れが思っていたよりも早く、日本語力だけではスキルセットの耐用年数の限界がくるなと感じています。
なので、数年前から力を入れているのは「英語」です。
自分が「日本語」を覚えたのと同じやり方でやってみようと思い、子ども向けの簡単は絵本を音読するところから始めました。
ブックオフで1冊100円~300円ぐらいに値段が下がっている絵本を狙って、手当たり次第に読破しました。1日に10冊ぐらいは読んでたかな。
絵本を300冊ほど音読し、続いて小学校低学年向けの挿絵入りの本を300冊ほど読み終えた頃におもしろいことがありました。英語を読んでいるという意識がなくなったんです。「あら~、わたし普通に楽しんで読書をしてるわ」って。英語を特別なものとして意識しなくなった瞬間でした。

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▶300冊以上読んだ絵本の一部。日本語だけでは出会えない世界観に出会えたのが最大の収穫

もちろん小学生の英語力ではビジネスでは通用しませんから、焦らずブラッシュアップは続けていくつもりです。

 

-これからチャレンジしたいことはありますか?

チャレンジしたいのはプログラミング。魔法をかける側になりたいんです。何年か前ですけど、コードを書いたことなんかないのにiPhoneアプリ開発講座に参加したこともありました。
実はそれまで数字を半角にすることも知らなかったんですよ。それでも最終的にタイマーを自作するところまではいきました。そこで止まっているので、もう一回やりたいなと。
そのときの無謀なチャレンジが自信になって、IT関連会社のコーポレートサイトの仕事を受注できたり、直接仕事に役立てようと思ったわけじゃないんですけど、結果的に仕事の幅が広がりました。
年齢を考えると、今からやっても無駄とか思いがちじゃないですか。それだと楽しくないので、「もし自分が今、10代だったら何をやるかな」と考えるようにしています。

 

-自分の人生で一番大切にしていることはなんですか?

大事にしているのは「自由」でいること。
ドタキャンされると「ヤッター!」と思うんです。何をしてもいい、何もしなくてもいいという時間が好きですね。旅行に行っても細かく予定は立てません。

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▶コンタクトインプロビゼーション(重力を意識しつつパートナーと身体の接触を続けるデュエット形式が中心の即興パフォーマンス)の仲間と

仕事は好きだし、むいていると思いますが、それに縛られたくはないです。ある意味、永遠のアマチュアみたいなところにいたいです。
そういう意味で、コピーライターという仕事は合っていると思います。関わる業界が変われば、新人からやり直しみたいなところがあるので、逆にそれが楽しいんです。
実家が自営業だったこともあり、「働く」のは当たり前のことという感覚です。
働き方は人それぞれだと思いますが、自分の持っている能力なりを発揮して、社会に貢献することが働くことだと思っています。

 

-あなたなりの息抜きやストレス発散の方法を教えてください

ちょっとしたストレスはシャワーを浴びて気分転換します。
日常的にジワジワたまるストレスは温泉でリリース。1年に1回はビーチリゾートかクルーズで何もしない時間をつくりリフレッシュして、エネルギーをチャージするというのがスタイルです。
プールサイドのデッキチェアーに一日中寝転んでいられます。一応、本は持っていきますが、ボーッと空を見て頭の中を空っぽにします。形の印象的な雲や夕陽の写真をとるのも好きです。
ストレスの軽い順に「シャワー→お風呂→日帰り入浴施設→温泉→ビーチリゾート→クルーズ」で発散でしょうか。

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▶旅行はいつも夫婦ふたりで。何もしない時間が日常で少しずつたまっていくストレスをリリースしてくれる。海と空が映し鏡のようになった瞬間

「旅するように暮らしたい」というのがずっと憧れなんです。旅行って最少限の荷物で行くじゃないですか。その解放感を日常にも持ち込めたらなって。残念ながらなかなかそこまで潔くなれないんですけど。なるべく物を増やしたくないので、旅先でお土産はほとんど買いません。場所とともにあるから輝いているのであって、ひとつだけ切り離して家に持ち込んでも、夢の残骸を見ているようでかえって辛い。
その代わり、普段使うもので気に入ったものがあれば迷わず買います。この前のシンガポール旅行ではクッションカバーを買いました。そろそろ変えたいなと思って3年、気に入ったものが見つからず、そのままだったので。インド人街でパッと目についたお店でイメージ通りのものが見つかったんですよ。

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▶シンガポールのインド人街で発見したクッションカバー

普段は忘れていて普通に使っていて、ふっと「ああ、そうだった。これはあそこで買ったんだったな」と思い出すのが好きなんです。

 

-あなたの生活の中でのこだわりや、お気に入りがあれば教えてください

リゾートホテルに泊まるときは、日常で使っているものを何かひとつ持っていきます。
読みかけの本だったり、そのときに気に入っているストールだったり、時々で違うんですけど、それをひとつ置くだけで、ホテルの部屋という空間を自分でぐっと引き寄せることができて居心地が良くなるんです。
その経験があったので、入院するときもお気に入りのグッズをたくさん持ち込みました。小物入れやカゴ、ティッシュボックスカバー、バンダナ、ランチョンマットなどなど。
看護師さんが「可愛い〜」って覗きにきたりして、楽しかったですよ。入浴剤やフェイスマスクも持ち込んで、優雅に過ごしていました。
ずっとパジャマ姿もいやだったので、昼はちゃんと部屋着に着替えて。治療中に体力が落ちるのは仕方がないけれど、できることはあるのだから、病人ぶっていても仕方がないなと思って。

 

-幸せだと思う時間や瞬間はどんなときですか?

冗談ではなく、大概いつも幸せです。
愚痴、悩み、困りごと、ないです。そこに時間を使っていても、人生の持ち時間を減らすだけだから。別に無理矢理なポジティブ思考というわけではないです。

変な話ですが、乳がんの治療中、ずっと幸せだったんですよ。大人って自立していて当たり前みたいなところがあるじゃないですか。それが、みんなが寄ってたかって気にかけてくれて、看護師さんなんて、なんでこんなに親切にしてくれるんだろ〜って。
見守られている、気にかけられているっていいな〜って。年をとるのは少し、怖かったんです。それまでできていたことが少しずつできなくなっていく。でも、できないことが増えるその分だけ、見守られることを受け入れさえすれば大丈夫なんだなって。年をとるのが怖くなくなったら、ますます幸せを感じる時間が増えた気がします。

今も乳がんの再発リスクは抱えていますが、別にそれで悩んだりはしていません。どうなるかは確率の問題ですし、マイナスの宝くじが当たるようなものですから、もし当たったらそのときに考えればいいことだと思っていますし、ふだんはほとんど忘れていますね。
左胸に傷跡はありますが、ふつうに温泉にも行きますし、ビーチリゾートではビキニも着ます。

 

-働いている時の貴方を「色」に喩えると?

オレンジ。

他のコピーライターの方と仕事をする機会ってないので、全然別のタイプ、たとえばピシュッと切れ味鋭いタイプの方とかもいらっしゃるかもしれませんけど、わたしは人の心に灯りを点すタイプかなと思っています。
コピーライターの仕事って、クライアントが気づいていないその会社なり組織なり、製品なりの良さを見つけてあげることだと思うんです。そして、その良いところをデザイナーやカメラマン、イラストレーターなどと協力して、わかりやすく伝える努力をする。お見合いおばさんみたいな役割だなって。
そのためには、自分自身がオープンマインドで、「世界はいいところだよ、大丈夫だよ」というスタンスでいたいなと思っています。

 

 

早い時代の流れに直面し乳がんを経た今、「どんなときにも幸せだった」と語る姿やその優しい笑顔から、まさにオレンジ色の輝きと柔らかいからこその強さを感じました。「壁にぶつかって悩んでいる人の相談にのるのは得意です」という中山さん。「無理して壁を乗り越えなくても、行きたい目的地に着けばいいんでしょう」と語る境地は、自分らしさを大切にしてきたからこそ、たどり着けたのかもしれません。

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いろんな女性の働く・暮らすを知ること 『100人100色』は、SAISON CHIENOWAとケノコトの共同記事です。

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