
ふだん使いの食器「美濃焼」から取り組む『うつわリサイクル』GL21中編
焼き物をリサイクルすることは非常に難しいと言われてきました。それでも「うつわをリサイクルしよう!」「日本の伝統や技を活かす中でよき製品を社会に届けたい!」という思いからGL21プロジェクトを導き続けている方にお話を伺いました。
なぜ、焼き物のリサイクルは難しいと言われているのか、どうしてそんな難しいことに挑戦しようと思ったのか、その原動力は何だったのでしょうか。
GL21プロジェクトのキーパーソン
スタートラインに立つことすら難しい”焼き物リサイクル”は、環境団体やエコ志向の作家やプロダクトデザイナーからいま注目を集めています。自然と共存する価値観は変わることのない心の豊かさなのかもしれません。
左) 岐阜県セラミックス研究所時代から陶磁器の技術支援を行う研究者の長谷川さん。「GL21プロジェクトも日本の伝統や技を活かす中でよき製品を社会に届けたい」と、このプロジェクトの立役者的な存在。
右) 岐阜県土岐市で窯業原料の製造加工を行う神明リフラックスの宮地さん。国内唯一の食器粉砕機を持つ神明リフラックスは、東濃地方ならではのGL21の取り組みを支援しています。
INTERVIEW
GL21プロジェクト副理事
市原製陶株式会社 代表取締役社長 金津 洋一さん
新たな業界スタンダードや技術を生み出すには、それを支える想いがあります。
GL21プロジェクト副理事の金津洋一さんへ「いまの想いと今後の展望」についてお話を伺いました。
―――はじめに、GL21プロジェクトがはじまったきっかけを教えてください。
焼き物は1300度ぐらいで焼くものですから、CO2を出しながら製品にしているんですね。市場で使っていただいて、こわれたり割れたり不要になったら、埋め立て地に埋めるしかなくて。埋めても千年たっても土にもどらない材料を使っているから環境に負荷をかけている産業や業種じゃないかと思います。そういう中で、業界として産業として、環境負荷を少しでも下げられるようなことをなんとかみつけて取り入れる必要がないかと考えたのが最初のきっかけです。
ただ、じゃあ陶器がすごく環境に悪いかというと、他の素材と同じ容積の器をつくるのに比較すると、CO2の排出量少なく同じ大きさが出来る、陶器がいちばんやさしいのです。でも現実にはどんどんCO2を排出している産業なのは変わりがないし、集まるたびに何かできないかという話になって、そんなときに研究者の長谷川善一さんに焼き物をリサイクルするということの考えを持ち込んでいただいて、埋め立地に処分せず、産地に回収させていただいて、それをもう一度、原料にもどせたなら、自然を破壊して持ってくる量を少しでも下げられるし、埋立地の延命にもなると考えて始めたんですね。
当時、食器を回収してつくられた食器くずを混ぜて土を作った場合と、新たに土をとってきたバージンの場合と、全体としてのCO2の排出量どっちが多いかというのももちろんみました。すると、ものすごく下がるわけじゃないけど、少なくとも増えはしない。運送で使ってしまう排気など、本当にリサイクルすることが環境に優しいの?という考え方もありますが、食器の場合は、埋立地の延命や自然半壊のことを含めれば、意味ある取り込みであるという確信を持ったのではじめました。
1 回収された古食器 2 日本に1台しかない食器専用粉砕機 3 1ミリ以下の食器くずになるまで何度も同じ経路を繰り返し通り粉砕される 4 坏土に使われる最終形の食器くず
―――なるほど、これまでにそのような時間があったんですね。今日、粉砕の工場でみせて頂いた食器粉砕機、なんでも一緒くたに入っていましたが、素材ひとつひとつ磁器か陶器、材質が違いますよね?
そうですね。目開き1ミリの網を通過するまで磁器も陶器も混ざった状態で何度も粉砕していきます。粉砕したものを使うわけだけど、そのときどきで物性が違うようでは工業品として使えないので専門の大学の先生を呼んでテストし調査をしました。
―――それは、回収物が磁器と銅器どれくらいの割合で入ってくるかということですか?
はい、そういうことももちろん考えなくてはいけないんです。主に一般に回収してきた場合に、磁器と陶器のバランスは磁器が多い場合約8:2。陶器が多いという状況でも最高でも磁器は約7:3くらい。磁器の中に、陶器が2割から3割まざってくる。それ以上にはまずならない。よっぽど特殊な状況でものが回収されればもちろん変わるけれど。
そんな中で、我々は回収したものを全部リサイクルしたいという前提で、物性のバランスがどういう風に出てくるか調査して、リサイクル率2割までであれば、回収したものの、ばらつきが全部吸収できるという考えを見つけたんですよ。なので最初のリサイクル食器用の土は、2割のリサイクル率と決めたんです。
―――それが食器くずを2割使っているRe20シリーズなんですね。
そうなんです。ところがね、いま世の中ってリサイクルするってことが結構当たり前じゃないですか。中には100%リサイクルとか、高いリサイクル率の数字が出ているなかで、何?2割だけなの?という反応が市場にはあるわけなんですよ。でもその2割にはものすご意味があるということをなかなか伝えきれないんです。
―――確かにどんなにすごいことか、お話し聞くまではわからなかったです。
先ほど、回収された古い食器を見ていましたよね。今作られている食器には一切ないですけれど、古い食器には、鉛とか、カドミウムが使われている絵の具があるんですよ。それを粉砕して中に入れて大丈夫なのかという部分について、すごく大きな壁がありました。それも色々なシーンを想定して調査し、何の問題もないというのを調べてもらっています。
1 食器くずで作られた坏土 2 焼き物の自動形成機 3 従業員の3/2以上が絵付けや釉薬を担当する 4作られた焼き物は、家庭や飲食店など私たちの日常に深く溶け込んでいく
―――改めてお聞きしたいのですが、美濃焼というのは業界的にはどんな産地なんでしょうか?
美濃というのは、スケールもあるし、製造技術も様々な技術を持っているし、需要にこたえて、生産できる地域です。たとえば100万円の抹茶碗も美濃焼もつくっているし、100円ショップの小皿も美濃焼だし、ヨーロッパの名作と言われるメーカーに負けないディナーセットも美濃焼なんです。そんな産地はどこにもないけど、ある意味、市場からみたときひとつに絞れないくらい多様な焼き物を作っているから、認知度は残念ながら少ない。
ヨーロッパには素晴らしい食器はいっぱいあって、親子三代にわたって使っているんですね。しかし、使われていても、その使い方はふだん使いじゃなくて、ホームパーティとか特別なお客様が来たときに食器棚からそれを出して使うんです。あとは大事にしまっておいて、生活ではふだん使いの食器を使っています。でも当たり前のようにふだん使いで使っている食器の品質ナンバーワンは日本なんです。それはヨーロッパでも、アメリカでも、イタリアでもなく。本当に朝、昼、晩、当たり前に使っているうつわ、うどん屋さんやスパゲティ屋さんでパッと出してくれるうつわの品質も世界一なんです。その世界一のふだん使いの食器をつくっているのは美濃の力。美濃の風土なんですね。
―――そんな食器を使用できる環境で私たちは生活しているんですね。資源を持ち、品質までも提供できる美濃だからこそ、このGL21プロジェクトをやろうと思ったのでしょうか?今回、お話を伺っていてなかなか苦労が多いなと思いましたがどうですか?
環境負荷をかけないリサイクルをみんなで考えていて、工場からゼロミッションじゃなくて、市場から回収することまでやるべきだと思いました。環境のことを、やらなくてはいけないと感じている人は意外と多いんじゃないですか。
だから、たくさんの製陶所や焼き物屋にこのリサイクル土を使って欲しい。でもメーカーは2種類以上の土を持ちたくないんです。みんなが1パーセントや2パーセントのリサイクル材量を入れるでもいいと思います。うつわは長く使えるもの。ものは大事にしなきゃいけない。みんなが当たり前にできればいいなと思います。
―――金津さんがGL21プロジェクトに携わる原動力になったきっかけはなんだったんでしょうか?
業界のためにというよりも、自分の人生の中でこの仕事に携わっていて、その仕事が、やっぱり良かったと思いたいじゃないですか。ひょっとしたら自分のためかもしれないね。もっといい世界に移るというのもひとつの考え方だけど、いま自分が関わっている業界がもっと中身が濃くなれば、それに越したことはないですね。
次回は、風土のちからでできたリサイクル土を使ってカタチにしたい、関わりたいというプロダクトデザイナーの吉田守孝さんお話しを伺います。そこには、デザイナーならではの普通とはちょっと異なる、モノの見え方がありました。
(この記事は連載でお届けします)
<前編はこちら>うつわ好きなら知っておきたい!焼き物の大産地 『美濃焼のエコプロジェクト GL21前編』
記事/REALJAPANPROJECT
REALJAPANPROJECT
REALJAPANPROJECTは日本のものづくり・地域産業のブランドづくりをサポートするプロジェクト。
“日本のものづくりをもっと身近に”という想いから、2009年にプロジェクトを発足し、日本各地のものづくりの現場に足を運びながら、ものづくりの本質を未来へとつないでいきます。
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