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取材 2016.11.05

100人100色ー「人を傷つけてまで生きる」という生き方をなくす。犯罪者の再犯防止に取組む心理学者ー東本愛香さんのお話し

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それぞれの立場、個々の考え方によって「働く」ことへのスタンスは異なります。正解なんてありません。
「100人100色」では、100人の「働く女性」に登場いただき、等身大の姿を語っていただきます。
年齢、環境、キャリア全ての背景が異なる人たちの100とおりの『想いや生き方』の中に、きっとあなた自身にとってのヒントが見えてくるはずです。

今回は、大学教員の東本愛香さん(41)をご紹介します。
自分自身を表現する肩書は、「東本愛香(とうもとあいか)」しかないと語る彼女。心理学者として、犯罪加害者の社会復帰につながる取り組みをしている方です。「私たちの取組みは、ストレートに受け入れられることばかりではありません」と語る東本さんに、自身の仕事に対する思いやこれからについて、熱く語っていただきました。

 

これまでのキャリアを教えてください。

小学校から大学までエスカレータ式の女子校に行いました。大学院には5年間通って博士号を取得しました。
卒業後、母校で勤務していたときに突然、今につながる領域の研究にお声がけいただきました。そして犯罪精神医学に関する研究に関わるようになり、特に性犯罪について研究することになりました。
上司の計らいもあり、学会も含めて2、3年のうちに5ヵ国ほどで学ぶという貴重な機会もいただきました。

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▶国内の学会にて

研究の中では“再犯のリスク”について予測していく方法や再犯防止のための治療教育プログラムについて興味を持ちました。
特に強く関心を持ったのが、そのようなプログラムを提供するための人材育成についてです。これには現在も関わっています。

 

現在の仕事内容を教えてください。

現在も司法精神保健に関する大学の研究室に所属しています。活動内容は、臨床研究を中心に再犯を防止する取組みとその運用に関するシステムの検討です。性犯罪という枠だけではなく、暴力というとらえ方やコミュニケーション能力の不足という観点からも取り組んでいます。

加害者臨床という領域に身を置き、「人を傷つけてまで生きる」という生き方が少なくあって欲しいと活動をしています。
5年続けると理解され、10年経つと共有できるようになっていくような気がするなぁと感じて心が熱くなるような日々です。多くの方に協力してもらえる環境に感謝しています。
事件の加害者である人たちへ、これから生きることや、まさに更生についてプログラムという形で提供している私たちの取組みはストレートに受け入れられることばかりではありません。
しかし、本人が再犯に至ることなく、生きることへの目標を持って生活できるためのアプローチを続けていきたいと思っています。
それが被害者を生まない手段の一つだとも思っているんです。難しいことではあると認識しつつも、彼ら自身が仕事に就いて、「自分は社会の一員である」と感じることが重要なんだと思っています。

 

これまでにぶつかった壁はありますか?そしてどう乗り越えましたか?

前に勤務していた大学の研究室が教授の退官などもあり閉室することになったんです。
私にとっては、今の領域で大きな飛躍をさせてくれた所属だったので、ここを辞めてしまったら「私が私でなくなってしまう」とか、「なんでこんなことになっちゃうんだろう」とか、「なんとかしなきゃ」とか、いろいろな考えがぐるぐるとまわりました。
以前の研究領域にもう一度チャレンジすることも考えたり、そこに職を求めようと動いたりも考えました。そんなときに、とある人に「私が私でいられなくなってしまうのではないかと不安だ」と、半泣きで話をしたんです。
するとその人から「大丈夫だから。周りの人のことは気にせずに、今やっている領域にしがみついてみて。」と言われました。

それからはそこまでの数年を活かせる分野を意識して大学の非常勤講師の職などにエントリーしました。そうしているうちに「刑事施設の再犯防止のためのプログラムを提供する人を捜しているので、紹介して欲しい」というお話がきたんです。もちろん「私が行ってもいいですか?」と手をあげました。
新幹線で行かなくてはならない場所でしたが、週2日、5年以上勤務させていただきました。プログラム内容の検討やプログラム提供者の研修を担当させていただき、自分自身の経験が必ず意味あるものになると思えました。
今でもこの施設やいくつかの施設には、スーパーバイザーという形で関わっているんです。
あのとき背中を押していただき、潔くしがみついていこうと思えたこと、「自分を信じて大丈夫なんだ」という良い“思い込み”をさせてもらったこと、あの時選んだことを今も継続してやっている。これがあのときの壁を乗り越えたということなのかなと思います。

 

これまでで一番忘れられない仕事のエピソードをお聞かせください。

国内でのイベントでの出会いも含めて、海外の先生方との交流で得られる影響が多い気がします。
初めて国際シンポジウムで登壇したときの緊張は忘れられません。でも、「アイカーーー、アイカーー」と仲良くしてくれる先生や、娘のようにかわいがってくれる先生がいたんです。

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▶初めて性犯罪について国際シンポジウムで登壇した緊張の日

最近ではわざわざ日本に来てワークショップをしてくれたり。なんだか、“いっちょうまえ”になったご機嫌な妄想をさせてくれて、次に向かうパワーをもらえているように思います。

先日は暴力リスクの保護要因評価ガイドライン(SAPROF)という、オランダで開発されたアセスメントツールのワークショップを日本でさせていただきました。通訳に関わらせていただいたこともあり、ご縁をぐいぐいたぐりよせ、招聘することができたのは大きな喜びです。
オランダから招聘した先生を交えて食事をしたりお酒を飲みに行ったり、そんな時間が何より宝物で忘れられない思い出になっています。
自分が海外に行くときもそうですが、メールでのやりとりを重ねてやっとその日を迎えたときのワクワクを感じると、一気にそこまでの疲れが吹き飛びますね。

 

あなたなりの息抜きやストレス発散の方法を教えてください。

日常的には仕事の帰りに寄り道する富士見バルという立ち飲みのお店の存在ですかね。地域の一員って感じを味わえて、息をさせてくれていると感じる場所です。「お店の一員になってるわぁ」なんてあらためて思えるバルにうかがうと、なんとも言えない“幸せ分泌”が体にジワリと染み出てくる感じがします。マインドフルな状態でいる、今の幸せにちゃんと身をおけている感じです。
ストレスの発散というか、川に流すような自然な感じでサラサラとできているように思えます。

 

あなたの生活の中でのこだわりや、お気に入りがあれば教えてください。

「散髪」かもしれません。もう17年にはなると思うのですが、同じスタイリストの方にカットしてもらっているんです。大学院の時、論文の中間発表会というのがあって、その会が終わったらここでカットしてもらおうと思って予約した日からのおつきあいです。

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▶大好きな散髪@表参道

それに、カットの帰りに見つけたbrasserie holoholoというフレンチレストランにもオープンの年から通ってますね。美味しいお料理にも思いやりのあるサーブにも心が穏やかにさせられていて、何かあると必ず自分へのご褒美にとうかがいます。

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▶表参道のholoholo、こういう心遣いに触れられる日々が嬉しい

それに栃木に仕事でうかがうときにはワインバーのマルチェロに。何も言わずとも好きなものをいただける、「ただいま」と言いたくなる場所です。
あとは香りも同じものを使いますね。玄関はグリーンティのものを、仕事柄ほとんどつけることができませんが、オードトワレはヴァーベナの香りですね。
新しいものを取り入れていくのもとても刺激になり大切だと思いますが、長くつきあえることの喜び、だからこその発見に魅了されちゃいます。

 

幸せだと思う時間や瞬間はどんなときですか?

朝起きると幸せを感じます。
仕事が無くなったような時期もあるので、「行くところがある」「会う人がいる」という朝に心が熱くなったりするんです。日々のそれぞれに幸せがちりばめられているので、“一日多幸”なんて言葉があれば、ぴったりかもしれません。

中でも特別に感じるのは空港です。出発するときには「これから起こる何かが私をますます幸せにしてくれるのだ」という思いを抱えているし、到着するときには、得たもので少しだけ「成長」した自分とこれからどうつきあうかを考えて、わくわくする感じがするんです。

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▶研究で訪れた街での楽しみ!イギリスでインド料理

特に海外に行くと、その感じが3割増し、いや5割増しというか。なるべく時間をつくって町を歩き、食事もして多くの人とコミュニケーションをとることで幸せ増やしをしています。

 

今後、あなたがありたい姿と、そのために行っていることがあれば教えてください。

私は伝書鳩のような役割になれればと思っているんです。
海外の先生方と仲良くさせていただく機会もあり、そこで学ぶ機会も与えられる私はそれを上手に持ちかえり、良いかたちに咀嚼し、言うなれば”翻訳”して伝えていくことに努めたいです。
そのためには、「自分の話を相手にしっかり聞いてもらえる人」として存在しなくてはいけないなと思っています。
「加害者臨床という領域に身を置いている心理学者」という今の立場は、自分のありたい姿になりやすくしてくれています。でも、そういった肩書きに頼らず、自身の力だけでもそうありたいと考えています。

 

これからチャレンジしたいことはありますか?

今、通信制ではありますが専門学校に通っているんです。
社会福祉の勉強をしていて、いつか資格を取得できればと思っています。長期間の受刑によって社会での生活が困難になる人も多いのですが、そんな人に「困ったら福祉に相談できるからね」ともっともらしい言葉をかけていた自分がいて。
もちろん間違っていないとは思うのですが無責任な気がしていました。再犯防止の取組みの一つとして、社会福祉の観点でも何か提供できることがないかと思っているんです。
もちろん国内で学ぶことも多いのですが、まだまだ知識も足りないのでゆくゆくは留学も視野に考えています。
まずは専門学校への入学と卒業が、ひとつのスタートになるように期待しているんです。40歳でスタートできることがあると、50歳が楽しみになります。

 
流れるようにではなく、こだわりを持ってキャリアを重ねている東本さん。「働くことで得るものがあり、日々得たものが、私にとって働くことを意味あるものにしているように感じます。」と話してくれた彼女を見ていると、1日1日に手ごたえを感じながら仕事をしているか、感覚が鈍っていないかと、改めて考えさせられます。

 

取材・記事/
いろんな女性の働く・暮らすを知ること 『100人100色』は、SAISON CHIENOWAとケノコトの共同記事です。

 

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