
100人100色―生きづらさを抱えた時間を経て見つけた、実りある人生。シェアハウス管理運営スタッフー鏡宮千里さんのお話し
目次
それぞれの立場、個々の考え方によって「働く」ことへのスタンスは異なります。正解なんてありません。
「100人100色」では、100人の「働く女性」に登場いただき、等身大の姿を語っていただきます。
年齢、環境、キャリア全ての背景が異なる人たちの100とおりの『想いや生き方』の中に、きっとあなた自身にとってのヒントが見えてくるはずです。
今回は東京都豊島区雑司が谷在住の、シェアハウス運営管理スタッフ鏡宮千里さん(40)を紹介します。「ずっと自分で生きづらさを抱えてグルグルしていた」という鏡宮さん。さまざまな出会いを経て、シェアハウスという自分の居場所を見つけました。そしてシェアハウスの運営管理という仕事をしていく中で「自分に何ができるか」を今も模索し続けています。
―鏡宮さんのこれまでの仕事の道のりについて教えて下さい。
鳥取県の大学の農学部で森林について学びました。友達は就職活動や公務員試験を受けたり大学院へ進学していましたが、それを他人事のように眺めつつ、なんとなくバイトをしたり、不登校や引きこもりの人達の居場所づくりを行うNPO活動に顔を出したりで、ぼんやり過ごしていました。
ちょうど「フリーター」という言葉が一般的になった頃です。フリーターという肩書きをもらったわけではないですが、そのような立場という以外に説明することはなく、ほぼ思考停止状態でした。
きっと父も母も何か言いたかったと思いますが、富山の実家から離れていたこともありうるさく言われずにいました。うっすらとした不安感を抱え、「きちんと働かなくちゃいけないのに何やってんの」と、自分を否定しつつ過ごしました。
そんな矢先に、先ほどのNPO活動の代表が「スタッフとして来てみない?」と声をかけてくれました。もっともスタッフとは名ばかりで、私のメンタルや行動パターンはその場を利用する人達となんら変わらない状態だったと思います。そこのところは代表も分かっていて、声をかけてくれたようですね。
不登校や引きこもりの人たちの居場所づくりに大きな古民家を借りており、私は住み込みスタッフとしてその家の一室に住みました。シングルマザーの子どもの預かり、昼ごはん・夕ごはんを一緒に作って食べる、勉強を教える、ちょっとしたお出かけを企画する……などの他、書類作成などの事務的な仕事もあったりで、てんやわんやでした。
このNPO活動では、不登校やひきこもりの当事者や家族の他、虐待・養育放棄と思われるケースにも関わることがあり、改めて「家族とはなんなのか」を考える大きなきっかけになりました。
私はそもそも「結婚」に対する願望がほとんどなく、自分自身で家庭を持つ、というイメージを持っていませんでした。活動場所の古民家へやって来る不登校やひきこもりなどの問題を抱えた人とその家族を見ていると、「家族」という形にこだわらず、長く生活を共にする仲間と過ごせる空間を作りたい、と思うようになりました。
―そして鳥取から上京。生活は変わりましたか。
鳥取でさまざまな出来事があった後に上京し、大きく環境が変わりました。
東京に来て最初は中野にあるシェアハウスに管理人として住んでいました。ここも現在スタッフとして勤めている会社が管理しているシェアハウスです。
そこは個室ではなくドミトリー(相部屋)で、最初は、ただ淡々と生活することが私にとってのリハビリでした。はじめに住んだシェアハウスの住人たちがなんともホッとするメンバーで、「ここにいてもいいんだ」と思えました。それから4年半程度住んで、自分も変わってきて、自分のスペースがないと思っている以上に自分に向き合うことができないな……と思い、ちょうど雑司が谷にオープン準備をすすめていたシェアハウスがあったので移動しました。
現在はその雑司が谷のシェアハウスの管理人として働いています。管理人ではあるものの、シェアハウスのオーナーさんよりも入居いただいてる方に近い立場を意識しています。
現在の仕事でちょっとしたアクシデントに対してあまり焦らないでいられるのは、鳥取で不登校や引きこもり、そのほか生きづらさを抱えている子どもや青年のいろんな年代の人たち、そして、そのまわりの家族の方々と関わる活動をしていた経験があるからだと思っています。入居者同士のいさかいや、私たち管理者側への思いもよらぬ苦情はよくあります。入居者さんやオーナーさんをはじめ関わる方々の声を整理して、よい方向に導けるようになれたら、と思っています。
▶︎管理しているシェアハウスの入居者から、パーティのお誘いがあることも。入居者の手作り料理。
―仕事での悩みや課題はありますか?
シェアハウス内のルール(モラルとの線引き)の伝え方、管理会社の立場としてどのように対応するか、という点ではいつも試行錯誤していますね。
たとえば入居者全体に対して「私物を置きっぱなしにしないでください」という呼びかけをすると、自分のこととして捉えてちゃんと片付けをしてくれる方がいる一方で、自分には関係ないと置きっぱなしにしてしまう方もいます。
最近は海外からの入居者も増えているのですが、「海外の人」というだけで毛嫌いして当たりがきつくなる日本人入居者、時間問わず大きな声で話す海外の入居者(むしろ声が小さいのは日本人くらいかもしれませんが)、料理の匂いが原因でケンカ……などいろいろなハプニングがあります。
日本人は、「相手に言ったら嫌がるだろうな」と思うことを直接伝えることを避けて、間接的に伝えようとします。伝えづらいことについては管理会社へ連絡がくるので、私たちから本人に伝えるのですが、その感覚が海外の方には理解できないようです。「さっきまでニコニコして話していたのなら、そのときに言ってくれればいいじゃないか」と。考えてみれば本当にその通りですが、最初はその発想に驚きました。
今まで正しいと思っていたことがひっくり返されることがたびたびあって、「日本らしい」もの・ことはなんなんだろう、シェアハウスで「シェア」できるものは何だろう、と考えています。
―これからチャレンジしたいことはありますか?
管理しているシェアハウスの入居者に海外の方が増えつつあり、それに対応するために海外スタッフもいますが、私自身も英語を話せるようになりたいと思っています。昨年、一念発起して英会話学校へ行きましたが、私自身の努力が足りずあまり上達した感が得られずに期間を終えてしまいました。開き直ってゆっくりした日本語で話しまくっていますが……。でも下手なりに海外スタッフに教えてもらいつつ、少しずつでも覚えていきたいですね。
あと、鳥全般が好きなんです。とてもかわいくて。
中でも文鳥、フクロウ、ペンギン、ハシビロコウはたまらないですね。最近文鳥の飼い方の本を買い、写真を見るたびにふにゃふにゃしてしまいます。癒しの時間です。今の私には飼えませんが、いつか文鳥と生活することを夢みています。
―鏡宮さんにとって「働く」こととはなんですか?
「自分を確認する」ということでしょうか。
私は「話す」こと、その場で的確な言葉を見つけることが得意ではありません。自己紹介や何か話を聞いてその感想を求められる、という場がとても苦手です。「言葉がない」ということが「考えが浅い」ことのように思ってしまうので、言葉が見つけ出せないことにコンプレックスがあるのだと思います。
しかし言葉を見つけるのがヘタな分、他人と関わることが、自分になんらかの言葉を当てはめることを助けているという感覚があります。積極的に他人に関わるのは苦手だけど、関わってないとあっさりと思考停止に陥ってしまうように思います。
ただ最近、「身体をゆるめる」ことや「マインドフルネス」のワークショップに参加したときに、「その場で言葉が見つかるっていうのは稀有なことだと思うよ」と聞いて、「すぐに言葉が見つからなくても悪いことじゃない」と思えてラクになりました。
言葉を自在に扱えることに対する憧れは変わらずありますが、身体から分かることがもっと多いのかな、と最近思うことが多いです。言葉をうまく使って自分の意見を言い、自分を主張したり存在を明確化することが苦手な分、誰かをサポートしながら「働く」という行動を通して、自分の存在を確かめている様な気がします。
―今後、鏡宮さんが「こうありたい」と思う姿はどんな姿でしょうか?
「なにかサポートできるようになりたい」という想いがありますね。
現在の仕事でも、入居者の方とお話をする機会が多くあります。内容はほとんどがシェアハウスで生活する中での世間話で、どちらかといえば不満、もしくは対応を間違えると不満につながると思われる事柄です。しかしこちらが話を聞くだけで、入居者の不満のいくらかが解消されるケースもたびたびあります。人は「自分の話を聞いてもらえた」と感じるだけでも、いくらかの満足が得られるようです。
鷲田清一さんの『語りきれないこと 危機と痛みの哲学』という本に、東日本大震災の被災者へのフォローとは何かが書かれてありました。私がフォローできていることは何か、ちゃんと聞き手になれているのかと振り返りをしています。
貧困は言葉の貧困を生む、と他の本で読んだことがあり、「言葉が生み出せないことは、自分を貧しくしていることだ」と勝手に変換していました。だからその場にふさわしい言葉をうまく見つけられないことにコンプレックスを持っていたのですが、この本を読んでから「そうじゃない」と思えました。言葉を生み出せなくても、「耳を傾ける」ということで誰かをサポートできるのだと思いました。苦手なところばかりに目を向けるのではなく、自分ができることに目を向け、それを生かしながらサポートできる人になりたいなと思っています。
―自分の人生で一番大切にしていることはなんですか?
家族のような「仲間」といったらいいのでしょうか。長く安心して一緒に過ごせる「仲間」が大切です。
去年から仲間と田んぼを借りて、主に週末に出かけて田植え・草取り・収穫の一連の体験をしています。「いずれはみんなでカフェやってみたいね」とか「農家民泊とかいいよね」と話していますが、そのような話ができる仲間がいるのはわたしには心強いです。
▶昨年から友達と借りている千葉の田んぼ。今年は雨が多く、「天候不順」という言葉を実感。
ずっと自分で生きづらさを抱えてグルグルしていたのですが、出会った人たちに助けられたという思いがあり、ものすごく感謝しています。友達ももちろんですが、特に鳥取で声をかけてくれたNPOの代表や、現在勤めている会社の社長には助けられました。もし出会うことがなければどうなってたんだろう……と考えるとうすら寒くなります。
まわりの人たちとの関係に支えられて、ほんとにラッキーに過ごしてこられたなぁ、とつくづく思っています。これからは、その幸運をどのように還元できるかを考えていきたいと思います。
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漠然と将来への不安を感じつつ、身動きがとれなくなっていた鏡宮さんの背中を押したNPO活動での出会い。そしてシェアハウスでの出会い……偶然のような出会いから、鏡宮さんの人生は鏡宮さんのペースで、ゆっくりと動いていきました。「言葉で自分を表現するのが苦手です」と語る鏡宮さんですが、相手の話にじっくりと耳を傾け、真摯に向き合おうとする姿勢は誰にも真似できるものではありません。その誠実な人柄が、あたたかい人の輪を作り、人生を実りあるものにしているのでしょう。
取材・記事/
いろんな女性の働く・暮らすを知ること 『100人100色』は、SAISON CHIENOWAとケノコトの共同記事です。
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いろんな女性の働く・暮らすを知ること。
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