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取材 2017.10.23

新天地でのチャレンジが生み出したもの『移住してジャム屋を始めてみたら』

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慣れ親しんだ土地を離れ、新たな場所で暮らす。ワクワクドキドキとした楽しさもありながら、馴染めるかな?と不安になることもありますよね。そんな新天地での不安から抜け出すには、新たな一歩を踏み出すことが大切なのかもしれません。

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首都圏から地方へ―――。人生にはさまざまな事情で、生き方の舵を切らねばならない時期がある。仕事や住み慣れた街を離れ、見知らぬ土地で子育てが始まって孤独に悩む女性も多い。

夫の転職により首都圏から地方へ移住した永田絢子さん(39)は、ジャム屋「さじかげん」の店主。新天地で未知のことにチャレンジし、新たな道を切り開いている。

引っ越して2カ月で出店

「どうぞ、試食してみてくださいね」。ある週末、静岡県掛川市の軽トラ市に、赤い軽自動車と永田さんの姿があった。店の看板の横には、彩りよく並んだジャムの瓶。「ここは私の原点なんです」と永田さんは言う。
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前職はジャムとは無関係の営業職。新規開拓を求められるハードな仕事だったが、「これができればどこでも通用する人間になれるはず」と自分に言い聞かせ、「絶対に辞めない」と誓ってはたらいた。

同僚である夫と結婚し、2人の男の子にも恵まれて会社勤めをしていた。満員電車に揺られて職場と保育園を行き来する日々を過ごしていた3年半前、夫の故郷への移住が決まった。

ジャム作りなら役に立てる

夫の実家は静岡県磐田市にあるマスクメロンの農家。大学で農業を学んでいた夫はメロン農家に転身。永田さんも家業を手伝うつもりでいたが、一人前になるまで何年もかかるといわれる世界で、「都会から来た嫁」にできることは少なかった。

もどかしさを感じていたある日、庭で熟れた橙(だいだい)の実を見つけた。収穫する予定はないと聞き、実が朽ちる前にマーマレードジャムを作って近所に配った。
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ジャム作りは母の特技であり、それは永田さんにも受け継がれていた。「ただいまー」と学校帰りに玄関を開けた瞬間、ぷーんと香った甘い記憶。ジャムを煮ているとその幸福感や母のぬくもりがよみがえった。

市場に出せなかったメロンでジャムを作ったら、家業の役に立てるかもしれない――。

調べてみると、ジャム製造は自宅の台所でできると分かった。営業で培ったバイタリティでジャムの本をかたっぱしから読み漁り、同業者を訪ね、しつこいほど保健所に問い合わせて製造や保存、販売方法を確かめた。

3軽トラ市で試食を勧める永田さん。ジャム作りと並行して販売の勉強を始め、引っ越しからわずか2カ月で出店した

試行錯誤でスタートを切ったのは、移住からわずか2か月後、14年6月のこと。週末の軽トラ市には6歳と4歳だった子どもも連れて行った。「まずはできる範囲で始めました。やらないよりやる。やってみたら何とかなるもんです」。

ピアノの端材で「さじ」を開発

月1回だったイベント出店は、2回3回と順調に増えていった。人のつながりはどんどん広がり、17年1月には地元のピアノ部品メーカー「鈴春工業」とコラボして、ピアノの端材でジャム用のスプーンを共同開発した。

きっかけは、もともとつながりのあった行政の担当者に「店名にちなんでオリジナルのさじ(スプーン)を作りたい」と相談を持ち掛けたこと。

静岡はピアノの製造がさかんな地域。鈴春工業は、木製品の加工を得意とするヤマハのピアノ部品メーカーだ。少子化でピアノの売り上げが減る中、鈴春工業も新しい分野を切り開こうと模索していた矢先だった。話はとんとん拍子に進み、若手社員との打ち合わせを繰り返して商品が出来上がった。

2音符型の「#neiro」(1800円)と少し小さい「#saji」(1600円)。瓶の底のジャムがすくいやすいようになっている。

はからずも、ジャムと同じで材料は“端材”。ピアノを作る時に余ったブナの木を使い、ジャムをすくいやすいよう設計した。異色のコラボは話題を呼び、テレビや新聞でも取り上げられた。

営業時代の教えを糧に

永田さんは今、行政の紹介で製菓店の工房を借りて、月曜から木曜の日中、一人でジャムを煮ている。

月30個から始めたジャム作りも今では月400個を作るようになり、委託販売をしてもらっているパン屋は10カ所以上。顔見知りの農家も増え、完熟の季節が来ると「とれたよー」と電話が入る。マンゴー、ブルーベリー、イチゴ、リンゴなど年間20種類以上の果物を仕入れている。

1工房でジャム作りをする永田さん

ただ、当初の目標だったメロンジャムは完成していない。何度も試作を繰り返したが、加熱するとメロンの香りが飛んでしまうので、納得のいく味が出せないのだ。代わりに、「ジャムを通じて農家さんの存在を発信したい」という別の目標ができた。「果物はやっぱり生がいちばんおいしいんです。ジャム屋である私は裏方として役に立ちたい」。

永田さんは東京での営業時代、上司に励ましてもらったことがある。「(目標に向かっているとき)最初は25メートルプールの水をスプーンですくって移すようなもの。だけど努力を怠らないでいると、バケツや重機で手伝ってくれる人が次々に現れる」。

知らない土地で子育てをしながら、たった一人で始めたジャム屋さん。今ではたくさんの人に支えられている。永田さんの暮らしは今、とってもいい“さじかげん”のようだ。

文/大楽 眞衣子
記事/ハレタル
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