
もともとは工業製品『マスキングテープがかわいい雑貨になった理由』
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今では雑貨として多くの方々に人気のマスキングテープ。元は工業製品として、建築現場などで使われていたのだそうですよ。そのマスキングテープがどうして、私たちにも身近なものとなったのでしょうか?そこには、女性たちの熱い思いがあるようです。
カラフルな色にかわいい柄、手紙やラッピングにも手軽に貼れて、はがしても跡が残らないマスキングテープは、今や定番の文房具。子どもが持って帰ってきたプリントを壁に貼ったり、100円均一ショップで買った袋に手を加えてオリジナル感を出したり、細かな贈り物が多いお母さんたちの必需品となっている。100円台〜と手頃な値段もウケている理由の一つだろう。
工業製品が雑貨に変身
しかし、マスキングテープといえば、ほんの10年ほど前まで、建築現場や車両塗装に使われていた工業用製品でしかなかった。塗装などを行うときに、マスキングテープを貼って養生することで作業箇所以外を汚さないために使用されている。そんな職人さんたちの現場の資材が、女性たちの必須アイテムに変身する転機が訪れたのは2006年のこと。
「東京の女性3人から、工場見学をさせてほしいとメールで依頼があったんです。透け感がかわいくて、手でちぎって使えるし、貼って剥がせて便利なマスキングテープを紹介する本を作っている。その中に工場見学記を載せたいと」
mtシリーズでは定期的にユーザーイベントも開催。会場はすべてマスキングテープで装飾(写真提供:カモ井加工紙)
そう教えてくれたのは、工業用マスキングテープや粘着テープの大手・カモ井加工紙の永井寛乃さん。カモ井加工紙は、文房具としてのマスキングテープ「mtシリーズ」を業界で初めて2008年に発売し、現在、雑貨用マスキングテープのシェア6〜7割を占める。
男性社会で使われていたマスキングテープは、作り手側も基本的に男性。色展開はあったが、それは粘着力や紙の強度などがひと目でわかるようにという便宜上の識別にすぎなかった。
「そんな会社に、業界人でもない女性から『透け感がかわいい』なんてメールがきても、どうしていいかわからないですよね。他社にもメールを出したようですが返信はなかったようです。うちも1回目のメールは取り扱いがわからず社内でたらい回し。でも2回目に連絡がきたとき、当時の営業部長が『うちは倉敷だけれど、それでもよければ』と工場見学を許可しました」
カモ井のmtシリーズで、いつも売り上げ上位に入る「フラッグ」「カラフルPOP」「刺繍」。「マットホワイト」「マットブラック」は柄物の下に敷けば、裏移り防止にもなる
その出会いがきっかけとなって、カモ井では雑貨としてのマスキングテープの開発に着手することに。もともと同社には「何か新しいことする」「自分でする」という行動目標があったこと、既存の技術でもできそうだったこと、主力製品がガムテープやセロハン製ではなく、和紙のマスキングテープだったことなどが奏功したという。
とはいえ、通常の製造工程の合間を縫っての開発は大変だった。工業製品は長さ18mだが、それでは長すぎる。9mという現在の長さにたどり着くまでにも四苦八苦。価格設定だってどうすればいいかわからない。雑貨店や文房具店など、販路もまったく畑違い。すべてゼロからの構築だった。
しかし、折しも当時は写真をかわいくデコレートしてアルバムを作ったり、オリジナルのかわいいスクラップブック作りが流行中。展示会などで興味を持ってくれた文房具店などから徐々に火がつき、あっという間に広がった。
女性3人の熱意が商品に変わる
一方、カモ井に話を持ち込んだ「東京の女性3人」の一人が、東京・経堂で雑貨店「stock」を営むコラージュ作家のオギハラナミさんだ。
マスキングテープは、美術部に在籍していた高校時代から絵を描くときに使っていたほか、「透け感がかわいいし、剥がせて便利なのでセロハンテープ代わりに使っていた」そう。その後も、雑貨店ではたらきながら、自身の作品制作に活用してきた。そんなある日、行きつけのギャラリーカフェで、袋に封をするのに使っていたレモンイエローのマスキングテープに出合う。
オギハラナミさんの雑貨店「stock」は小田急線経堂駅から徒歩8分
「今まで見たことがない色だったので、あまりのかわいさに衝撃を受けました」とオギハラさん。そのマスキングテープは車の塗装に使うものでホームセンターに売っているという。すぐにグラフィックデザイナーの友人を誘ってホームセンターに足を運ぶ。売り場にはオギハラさんたちが思っていた以上に多彩な色が並んでいた。
その勢いでマスキングテープを紹介する本を作った。それは「本」というよりもお手製のアート作品のようなもの。「ギャラリーカフェに展示して販売したら、ものすごく売れた。一緒に販売したマスキングテープもよく売れました。それなら、いろいろな作家さんに呼びかけて、マスキングテープを使った作品を作ってもらおうとさらに盛り上がり、どんどん話が広がっていきました」(オギハラさん)。
工場見学の依頼を送った背景にはそんな経緯があったというわけだ。そして、唯一受け入れてくれた会社がカモ井だった。
当時作ったマスキングテープの自主制作本。中には「まだ見ぬ新色を夢みて。マスキングテープとの日々はつづく」とオギハラさんの言葉も
「本当は欲しい色をオリジナルで作っていただきたかったのですが、そのためには数十万円もかかり、最小ロットも数千個と現実的ではない。そのときは断念したんです」
しかし一方で、ギャラリーカフェでの一般の人たちの反響に驚いたカモ井は商品開発に着手。そして発売した当初、20色からスタートした雑貨用マスキングテープは、発売から10年足らずでおよそ1000種類まで増えた。
オギハラさんのおすすめは
現在、オギハラさんは1ファンとして、自身のお店で自分の好きや色や柄を販売している。
人気があるのはマットホワイトやマットブラック。そして、金や銀、蛍光色なども人気が高いそうだ。「1色だけで使うなら柄物ももちろんかわいいけれど、2色以上組み合わせるときは、柄×柄だと難しい。そういう意味でも無地を持っていると便利ですよ。濃い色は引き締めにもなります」と教えてくれた。
「stock」の店内には、オギハラさんチョイスのかわいいマスキングテープのコーナーが
最近のブームに乗って、マスキングテープをDIYに使う人も増加中。広い面を簡単に貼りたいという要望に応え、幅広でハリのあるものも登場した。ユーザーの声を取り入れながら、どんどん進化を遂げるマスキングテープは、これからも私たちの生活をますますかわいく彩ってくれそうだ。
文/吉田 理栄子
記事/ハレタル
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