
旬食材『鱈』ー鮮度が命の厳寒の海の幸。古くは縁起物でハレの日のごちそう ー
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タラは漢字で「鱈」と書く通り冬が旬で、多くは寒帯や亜寒帯の冷たい海で暮らす魚です。産卵期が冬から春にかけてなので冬季の鱈はよく太っておいしいとされています。
鱈は肉食なので貝やカニを始め、海の生き物大体を餌にすると言われています。貪欲にたくさん食べるので、お腹いっぱい食べる時の「たらふく」という言葉は「鱈腹」の字を当てるという説もありますね。ちなみに、たくさん食べるからなのか、鱈の胃には時折胃潰瘍が見られるのだそう。魚でも胃潰瘍になるだなんて驚きですよね。
淡白な白身なので世界各地で食材として親しまれる魚。干し魚としても。
鱈は世界各地で食材として愛されています。日本ではちり鍋のような鍋料理の他、焼き物や蒸し物として和食にもよく登場します。イギリスの郷土料理、フィッシュアンドチップスは白身魚のフリッターとフライドポテトの盛り合わせですが、鱈がよく使われています。
生魚の形で食材にされる他、かまぼこやちくわのような練り製品に加工されたり、魚肉以外でも魚卵は「たらこ」や「明太子」、精巣を「白子」、皮や内蔵を塩辛のようにして食べるなど余すところなく利用されています。
色んな食べ方ができるおいしい魚ですが、脂肪分が少なく日持ちしにくいという泣き所があり、基本的には刺し身としては食べられません。また、流通が整備されていない時代では生のまま輸送するのが困難であったため、東北地方や北海道で水揚げされた鱈は乾燥させた「棒鱈」という干物になって北前船で関西へと運ばれました。
棒鱈の煮物はハレの日のごちそうとして親しまれて、特に京都では棒鱈と海老芋と炊き合わせた「芋棒」という料理が有名です。ちなみに東北ではこの芋棒のように棒鱈と芋を河原で煮たのが芋煮の原型の一つとも言われているそうです。
九州の一部では干し鱈はお盆に食べる夏のごちそうだそうですが、なぜか棒鱈ではなく「たらおさ(鱈胃)」と呼ばれる鱈の内蔵部分の干物が使われています。これは干し鱈を売りながら南下している間に身を干して作った棒鱈が売り切れてしまい、九州の人たちは内蔵の干物しか買えなかった…というちょっぴり切ない言い伝えがあるそうです。ですが、たらおさはエラや内蔵という幾つかの部位が含まれているので食べる場所によって食感が違い、お酒の肴にもご飯のおかずにもよく合うのだそうです。どんな味か、気になりますね。
ちなみに乾燥状態の棒鱈は茶色くてカチカチした感じの物ですが、富山や新潟で作られている白っぽい干し鱈は「すきみ鱈」とも呼ばれるもので棒鱈とは別物です。
生の鱈は買ったらすぐに食べるのがポイント。手軽に楽しめる外国料理の素材にも
鱈は北海道や東北で水揚げされる物が多いのですが、他の地方でも穫れる魚なので海が近い土地であれば地物の鱈が売られている事もあります。地元産の物は鮮度が良いので鱈の旨味を十分に味わう事ができます。先にも書いたように鱈は鮮度が落ちやすいので買ったらその日に食べるのがおすすめです。
生の鱈はあっさりした和食にぴったりの食材ですが、海外では「バカラオ」(バカリャウ・バッカラ)という名前の干物を使った鱈料理が各国の家庭で楽しまれています。
日本の棒鱈は真鱈の身を三枚おろしにした後、塩をかけずに生のまま天日干しにしたものです。乾燥に1~2ヶ月かけるのでカラカラで、戻すのに一週間くらいかけて水戻しします。これに対し、バカラオは塩を振って干した干物で、棒鱈ほどカチカチではなく1日から数日で水戻しが終わります。
スペイン料理やポルトガル料理のレシピでバカラオやバカリャウが材料に指定されている場合、棒鱈を戻して使うより、鱈の切り身に強めの塩を振って一晩置いた物の方が戻したバカラウに近い材料として使えます。じゃがいもと戻した鱈を一緒にゆでて潰し、衣を付けずにそのままスプーンで落としあげにするコロッケはポルトガルやマカオで食べられていますが簡単でおいしいのでぜひお試し下さい。
棒鱈は「たらふく食べられる」という願いを込めて関西のお正月料理に取り入れられています。また、直江津の有名な駅弁の「鱈めし」は棒鱈の甘露煮を乗せた物です。生の鱈と干物の鱈、どちらの違った味わいがあっておいしいので冬のごちそうのレパートリーを増やしてみてはいかがでしょうか。
文/ケノコト編集部
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