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エッセイ・コラム 2019.01.14

台所育児エッセイ「暮らしに恋して」『25 たまり醤油を訪ねて』

以前みそ探訪家の岩木みさき先生より主宰される「醸すパーティ」というイベントのフードの依頼があった。そこでの出会いのひとつが南蔵の青木さんであり、たまり醤油だった。私の日常にたまり醤油はなかったのだか、この日試食し、そしてお話伺うほどに魅了され、すぐに神奈川から愛知を訪ねる旅を計画した。

風景だけでここは伝統を大切にしていると分かる。最盛期には50軒ほどあった蔵は、今では6軒のみだという。愛知県武豊町の一角にその6軒は密集している。大きな木桶が並ぶその細い道は確かに醤油の香りがするのだが、想像するよりそれは軽やかだ。なんというか、清潔な香りである。真剣な眼差しで作業している姿が通りからも筒抜けだ。工場で作られていると思っている子供が見たら外とつながる蔵や木桶を見て驚くに違いない。

案内戴いた先には古い木桶がずっと先まで並んでいた。鼓動が早まるのを感じながら歩みを進める。

たまり醤油と聞くと、とろみがある、こっくりとした、など味や口の中での感覚が自然と湧く。だがまず、そのイメージも柔軟にしなくてはならない。たまり醤油は仕上がるまでに長い月日がかかる上に取れる量は少ない。真っ当な材料を使い、自然の営みで醸される月日を待つのだから必然であるが、効率化を図り安価を目指してしまった故に「家庭でよく使われるもの」と「伝統を重んじ本来あるべき姿のもの」とがかけ離れてしまったのだと素人の私でも理解できる。醤油の中でも手間や原価がかかり高級と言われていたたまりに様々な手が加えられ、どろっとした印象に塗り替えられてしまったようだ。
木桶を覗かせてもらうと、重石の隙間に液体が見える。柄杓で救うと確信となる。サラサラだ。

色も黒というより赤で、にごりもない。味はというと、旨味の塊という印象。塩の角がない。

こうしてまずは味覚について存分に考え感じてから、製造法に意識は移ろう。
自宅で味噌を作られるかたの多数が米が麦に麹付けをした麹を使われるから、蒸した大豆自体に麹をつけてつくる豆味噌やたまりについてはご存知がなく想像もし難いのではないか。蒸した大豆をつぶし団子状にした「味噌玉」を室へ入れ麹菌を繁殖させ「豆麹」を作るのだ。米味噌なら材料は大豆、塩、米麹だか、大豆と塩だけということだ。

「全ては麹造り」とおっしゃり、なによりも大切にされていらっしゃるのが真剣な面持ちからも伺える。科学的データを蓄積し、大豆のタンパク質が効率的にうま味成分に分解されていくよう根拠に基づいた理念で手を施すという。作るのは菌、環境を整えるだけ…
子育てにも通ずるな、と、つい預けてきた4人の我が子に思い馳せてしまう。必要なことだけをそっと施し、見守ることでそしてその持ち味を持ち味通りに自ら発揮するのだと。

浸漬の様子やむろ内部も見学させていただいたのだが詳しい製法などはやはり私の口からはむずかしい。たった一度のお伺いと至らぬ私の知識では到底正しくお伝えできないので足を運んで働く方の姿勢や想いごと体感していただければと思う。

なかなかそれが叶わない方はHPにて蔵や蔵人の想いに触れていただき、「つれそい」をお取り寄せされてお試しいただければと個人的に思っております。圧搾するのではなく、木桶の底に溜まった僅かしかとれないそれは商品の中でも間違いなく特別な味わいであり、相応しい表現が自分の内にありません。未だかつて出逢ったことのない旨味を感じた感動を言葉に残せる幸せに尽きます。伝統を守ろうという言葉だけでは価格面含めなかなか暮らしは変わらない。美味しくて仕方なくて蔵を訪ねてみたくなり、想いに触れお心通わせご縁が芽生え…。「料理家だから調味料にこだわる」なんてことではなく、私は愛着をもって大切にしたくなるものに囲まれて暮らしたい、それだけである。

 

エッセイ/みつはしあやこ

家時間好き4児の母。台所育児エッセイ「暮らしに恋して」を執筆。子育てのゴールは親がいなくても生き抜く力を育むこと=自炊という信念。仕事は暮らし関連全般で多岐に渡るが一応料理家、「和食育こころ」主宰。誰でも簡単に作り置きできるおやつの著書もある。心地よく巡る暮らしの工夫をインスタグラムで毎日更新中。
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