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エッセイ・コラム 2019.02.07

akari’s life style 『第2話 イーストドーナツ』

「今日ドーナツ作っておくね。」
朝、幼稚園へ向かう息子によく言う言葉です。
息子はドーナツが大好きで、作ったよと言うと飛び跳ねて喜んでくれます。
何故ドーナツが好きなのか、いつ好きになったのか。
他の食べ物のことは忘れてしまっても、ドーナツだけは鮮明に覚えています。

2歳半離れている、いや、2歳半しか離れていない兄妹の育児にまさに“奮闘”の毎日ですが、
今考えても一番大変だったなあと思うのが、今からちょうど2年前、3歳と0歳の時期。息子が幼稚園へ入園するまでの期間でした。
家事育児だけで一日があっという間に終わり、疲れ果てて寝かしつけをしながら自分も寝落ちしてしまう毎日。
朝が来ると、ああ、また一日が始まる…となぜか暗い気持ちで。
どこに行くでもない、朝から晩まで話し相手もいない家の中で育児をして、
永遠にこの閉鎖的で過酷な生活が続くような、そんな気がしていました。
もちろん子供たちは可愛いし、小さい子供たちを育てる時間が幸せであることは分かっています。
夫も周囲も育児にはとても協力的です。
それでも基本子供達の世話をするのは私で、誰かが代わってくれたとしてもそれは一瞬で、
次の日になれば当たり前のように一人で育児をする。
この孤独な気分は、きっと多くのママが経験したことのある感情ではないでしょうか。

そんな私にとって、心を“リセット”する時間が「外に出る」時間でした。
外に出ると言っても、幼い子供二人を連れて行けるところと言えば限られています。
電車に乗ってこの子達が騒いだら。
周りに迷惑だな…白い目で見られるのかな…
そんな事を考えて、電車からは自然と足が遠のきました。

当時住んでいた最寄りの駅に、某チェーン店のドーナツ屋さんがありました。
ある日の買い物の帰り道。
お客さんも少なかったので、「ここで休憩しようか」と3人で初めて入ってみました。
ショーケースの色とりどりのドーナツに目移りしてしまいましたが、
息子はシンプルなドーナツを、私も同じドーナツと熱々のコーヒーを頼みました。
初めて食べるドーナツ。ぱくっと一口。
「美味しいね。」「ふわふわだね。」
息子の優しい笑顔を見て、凝り固まっていた肩の力がふっと抜けたのを覚えています。
珈琲の香りもリラックスに良かったのかもしれません。
ペロリとあっという間に食べてしまった私たち。
「美味しかったね、また来ようね。」
そう約束して、また日常に戻りました。

この日以来、息子はドーナツが大好きになったのです。
ふわふわの食感、甘い甘いお砂糖の味、それにお母さんも笑顔だ、そんなことを思っていたのか、いないのか。
それからというもの、ああ外に出たいと思うと3人でドーナツ屋さんに通うようになりました。
ドーナツを食べて、みんなで笑顔になるのがお約束になりました。

間もなくして息子が幼稚園へ通うようになると、私も心に余裕が出てきました。
1日3食用意しないといけないプレッシャー、お昼を幼稚園で食べてきてくれるだけで、スッと心が楽になったのを覚えています。給食はとても有り難いものです。
今思えば、ピリピリした雰囲気の中に置かれた子供達に申し訳なかったなという気持ちもあります。
でもそれがあの時の私の“精一杯”で“一生懸命”の頑張りだったのです。
後悔しても仕方がないので、その分これからの生活で1分1秒でも多く笑顔でいようと心に決めたのです。
もちろん完璧にはできていません。些細なことにイライラしてしまう毎日ですが、あの頃より笑っていることは確かです。
引っ越した今でも、「今日頑張ったね」という日にはドーナツ屋さんに行っています。
いつものシンプルなドーナツを頼んで、お店の席に座って3人で食べるのです。

そのドーナツ以上に息子が喜んでくれるのが、私が手作りする「イーストドーナツ」です。
強力粉+薄力粉、パンのように“ドライイースト”を使って発酵させるふわっふわのドーナツです。
息子のためによく作るのですが、決めている事が一つ。
「気負わない事。」
完璧を求めて“手捏ね”である必要はないと自分に言い聞かせて。
大事なのは、頑張った息子が帰ってきたときにテーブルにあるようにする事。
帰ってきてすぐに「やったーー!」と言ってもらう事。
例え忙しい日でも、ホームベーカリーに材料を入れて、スイッチを押せば生地はあっという間に出来上がり。
喜ぶ顔を思い浮かべながら型抜きをして。
子供が食べるから油には少々拘って。
粉糖+牛乳を混ぜたアイシングを上からかければ、ふわっふわのドーナツの出来上がり。

冬休みが始まった日、おやつにイーストドーナツを。
今日は特別にチョコレートでコーティング。
2学期もよく頑張ったね、の意味と
あと一つ。
さあ、今日から忙しくなるぞ。でもイライラしなくて大丈夫。あの時を乗り越えたあなたなら、笑顔で頑張れるでしょ?という自分への応援の意味も込めて。
「さあ食べよう。」
ふわふわのドーナツ、みんなで一緒にいただきます。


エッセイ 執筆/ akari

1プロフィール
4歳、1歳 兄妹の母。浦和「kurasu_life料理教室」主宰。フードスタイリスト、食育メニュープランナー。野菜をたくさん取り入れること、旬のものを食べて四季を楽しむこと をモットーに毎日料理しています。中国在住経験がある為、中国料理・アジアン料理も好きです。Instagramには、家族の為に作った日々の御飯を投稿しています。

instagram
http://instagram.com/kurasu_life

 

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