
東京唯一の味噌蔵『糀屋三郎右衛門』~昔みそが愛され続ける理由①~
東京に一軒、昔ながらの味噌蔵があります。
西武池袋線・中村橋駅を降りて商店街を抜けると、長閑な住宅街の一角にまるでタイムスリップしたかのような郷愁漂う建物が目に入りました。「昔みそ」の看板が目印の『糀屋三郎右衛門』。明治時代に茨城県で創業し、東京に移って建てられたこの蔵は既に80年の歴史を刻んでいます。
変わらぬ味は、変わらぬ道具とともに。
糀屋三郎右衛門では、味噌の美味しさの決め手となる「こうじ」から手作りしています。7代目・辻田雅寛さんとそのご家族が、代々伝わる味と製法を今も守り続けています。
蔵の中を見渡せば歴史を感じる道具がずらり。
「道具も大体50年以上使ってます。作りが単純だから、そう簡単に壊れない。壊れたって釘を打てばすぐに直せるから新しいものに変える必要がないんです。それに昔から変わらず同じ道具を使っているということは理に適っているってことなんだと思います。」
そして辻田さんが見せてくれたのは麹をつくる木箱に掛ける菰(こも)といわれる稲わらでした。
実はこの菰も今となっては編める人も少ないようです。稲作が盛んな農業地域ならまだしも、何せここは東京。材料の稲わらさえ容易に手に入るものではなくなってきました。
「稲わらって麹菌が繁殖しやすい温度と湿度を程よく保ってくれるんです。布やプラ製のような、代用できる素材を探したこともあるけれど、やっぱり稲わらには適わなかった。きっと昔から試行錯誤を繰り返していると思うけれど、それでもずっと変わってない素材を使い続けているんです。これって凄いことですよね。」
こうじ造りは『お米に花を咲かせるように』
作業場に入ってまず目に留まるのが「室(むろ)」とよばれる場所。石造りの壁で仕切られたこの空間は糀屋三郎右衛門の看板である「こうじ」がつくりだされる場所で、「製麹(せいきく)」というその作業には丸三日も要するのだとか。
蒸した米や麦をを手作業で小分けにして、昼夜問わず熱い室の中で作業するのはかなりハードなのでは?との問いに
「そう、すっごく大変!」
と言いながらも、その表情は柔らかな笑顔で、こうじ造りへの愛情や誇りが垣間見える瞬間でもありました。
「こうじはね、米に花が咲くみたいだから『糀』って書くの。」
「麹」と「糀」、どちらもこうじと読みますが、この米偏に花と書く漢字は日本独自の文字なのだそうです。
そして辻田さんの作るこうじに改めて目をやると、本当にお米にふんわりと綿のような花が満開に咲いているように見えました。
こうして作り出されるこうじは自蔵の味噌の材料に使われるほかにも、「雪の花」という商品として一般販売もしています。塩麴や甘酒を手作りしているご家庭にはぜひおすすめしたい一品です。かの有名な老舗パン屋さんもこちらのこうじを使っているのだそうですよ。
時代が進んでも、アナログだからこそできる200%を追及したい
蔵の中を見させていただくと、こうじ作りも味噌づくりも肉体的にハードだろうということが容易に想像できます。機械づくりが主流の昨今、どうしてこうじも味噌も手づくりすることにこだわるのでしょうか。
「発酵の菌は生き物なので、デジタルじゃコントロールできないと思うんです。同じものを安定して作り続けたいのであれば機械が向いているけど、新しいものを作りたい場合は機械じゃできません。」
「人間の感覚で70-80%のものを安定して供給できるのが機械。でも人間が作るとたまに200%のものができちゃうことがあるんですよね。」
確かに機械頼りになってしまっては人間の進化が止まってしまうし、技術進歩のスピードが速いこのご時世、巨額の投資で最新の機械を導入してもすぐに時代遅れになってしまうかもしれません。
辻田さんのお話しを聞いていると、「昔ながら」という表現が決して「昔と同じ」ではないことを痛感します。
全国的にみても昔ながらの製法を守り続けている味噌蔵が淘汰されつつある中で、それでも糀屋三郎右衛門の味噌が何百年もの長い時を経て多くの人から愛され続けているのは、常に進化し、最善を上回ってきた努力の賜物なのではないでしょうか。
「うちの味噌は特徴がないことが特徴かなぁ・・・」と、はにかみながら味噌樽の蓋を開けて、味見を勧めてくださる辻田さん。粗めに潰された豆の食感が楽しく、丸くて優しい塩気が感じられる「昔みそ」の魅力については、また後編でご紹介します。
取材・記事/ケノコト編集部
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