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まめ知識 2019.03.20

日本の暮らしの言葉 『暑さ寒さも彼岸まで』季節の移ろいを肌で感じる経験則から生まれた慣用句

最近は「前代未聞の猛暑」とか「例年にない大雪」といった異例の気象の様子が報道されるのを頻繁に見聞きするようになりました。平成最後の冬である今年は北日本を除いてかなりの暖冬となりましたね。雪が例年より少なかった事で過ごしやすいと感じた人がいる一方で、スギ花粉の飛散が前倒しになり、更に花粉飛散量も多いとして困っている方も多いようです。
2月の立春の後から寒さが緩み始めて三月に入り「このまま暖かくなるかな」とコートをクリーニングに出してしまったらまた急に寒くなってしまった…という失敗をしてしまったなんて失敗談もちらほら聞こえてきます。そんな時に思い出されるのが「暑さ寒さも彼岸まで」という慣用句です。

 

統計上でも実証される暮らしの経験から生まれた暮らし言葉

この言葉は「夏の暑さも冬の寒さも彼岸のタイミングで和らいでくる」という経験則から生まれた言葉のようです。彼岸とはそれぞれ春分と秋分に当たり、その日を境に日が長くなったり短くなったりします。
実際に、彼岸に当たる時期を過ぎると夏の酷暑や冬の厳寒にあたるような日が来る事はあまりなく、実際の気象の統計でも言葉の正しさが証明されているそうです。
北日本と南日本で若干異なりますが、春の彼岸の気温は冬の始まりである11月~12月頃の平均気温、逆に秋の彼岸頃は5月下旬から6月頃の平均気温に当たるので過ごしやすい時期といえるかもしれません。

一方で北海道のような寒冷地に本格的な春がやってくるのは5月頃。彼岸の頃はまだ寒さが過ぎていない頃だろうと思い、北海道の人に「彼岸頃はまだそちらは冬でしょう?」と尋ねた所、「10度もあるからびっくりするほど暖かいと思う日がある」との返答。寒冷地以外で暮らす人にとって外気温が10度といえばまだコートが必要なので、この感覚には少し驚いてしまいますよね。冬期の零下が当たり前の地域の人にとっても彼岸頃は暖かくなったという感覚が感じられる時期になるようです。 (但し、北海道は広いので中部や北部などで季節の感じられ方が全く異なるようです)

 

使うシーンによって意味合いも様々

一年を通して気温の変動が激しい日本では季節ごとの過ごしやすさは大切な問題だったようで今でも「家のつくりようは夏をもって旨とすべし、」という徒然草の一説が夏になるとよく話題に上がります。「暑さ寒さも彼岸まで」も同様に「この時期がくれば過ごしやすくなるからそれまで待とう」という気温の変動に対する日本人の姿勢を示した物と言えますが、この慣用句は気温以外に対しても使われる事があります。

何か辛い事があった時などに「苦しみがずっと続くわけではない。季節が、時が経つと変わっていくのと同じだから時間が過ぎるのを待ちなさい」というように何事にも峠がある、と慰め励ます時にも使われます。
これは季節の移ろいを肌に感じているからこそ伝わる言葉だと思います。時が立てば解決する事もある、という事実を温度の変化の実体験から可視化する事で辛さを受け止めやすくする表現ではないでしょうか。

日本の暑さも寒さも独特の物がある、と言われる事がありますがそのせいかこの慣用句については英会話のレッスンなどで英語ではどう言い換えるか、として題材にされる事も少なくないようです。「この地点から気候が変化して涼しく(暖かく)なる」と直訳する例が多い中、慣用句の意味として一番近いのは “Seasons come, and seasons go.” という表現ではないでしょうか。「一つの季節がやってきて、古い季節が去っていく」という一見するとごく当たり前の事なのですが季節と共に時間が流れて行く無常観をシンプルな言い回しで表現された好例ではないかと思います。

「彼岸」という仏事に関わる言葉が入っているためか、どこか諦念に似た雰囲気も感じられる言葉ですが、暑さも寒さもあるがままに受け止めていた時代の人達の潔さが伝わって来る深い言葉でもあるかもしれません。
お彼岸を迎える今、今年の寒さもそろそろ終盤。心待ちにしていた春の陽気を楽しみましょう。

 

記事/ケノコト編集部

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