
台所育児エッセイ「暮らしに恋して」『35 遅咲き願望』
目次
幼少期の私は「可憐な少女」とは無縁の野性味が溢れていた。そのまま今に至る。
野性の女・・・文字にすると恐ろしいがなかなかいい。野良猫ならぬ野良人という表現はもっと望ましい。広大な自然に囲まれ育った父が、小さな頃から私にも土ある暮らしを選んでくれていたから、そんな自分でいたいのだ。
私の実家は決して都会ではないが父の田舎に比べたら空が相当狭いと感じるようだ。本人は記憶にないようだが、「この狭い空の下では、目の前のことに追われてしまっても仕方がないんだよ。」とこぼした。それが私の心には染み込んで広がった。未だに父の田舎に帰ると、細胞レベルで体が喜ぶのを感じる。大地に大の字に寝転び深呼吸すると、緑と土の香りで身体中が満ちる感覚がたまらない。憧れや理想を掲げ日々奔走する暮らしから、ここでは今を生きるだけが全てなのだ。自然に委ねる暮らしの中で私にできることはごくわずかで、いい意味で成り行き任せ。あくせくしようもないのだ。
学歴は無難とか王道と言われる道筋で来たが、ずっと根っこは変わることがなかった。そうして思い描く暮らしを共通の想いとする人と出会い結婚した。叶う範囲で土ある暮らしを選び今に至る。この家から見上げる空も決して広くはないのだが、大人になった今は自分の意志次第で毎日を思うように紡げるという気付きもあり、まだまだ実験的日々ではあるが、とても幸せだ。最寄り駅に行けばなんでも揃う街に住みながらも、私なりにあえて「不便」を暮らしの光としたいのだ。
発酵食品作りや季節の手仕事はまさにそんな位置づけ。夫婦ともに買い物が苦手なこともあり、季節の恵みを干したり醸したりすることで買い出しに追われることなく穏やかに暮らしている。子供は旬を知り、また彩の豊かさ以上の喜びや感謝を知る。月日が美味しさや安心をもたらす暮らし。いつかは夫婦二人で田舎に暮らすつもりだ。
まだまだ理想の暮らしへのプロローグである。私の人生は遅咲きで良い。だって幼い頃からロッキングチェアに心地よく揺られ的編み物をするおばあちゃんに憧れているのだから。笑いじわが刻まれたくちゃくちゃな顔で、パァッと微笑んで静かに花開こう。
エッセイ/みつはしあやこ
家時間好き4児の母。台所育児エッセイ「暮らしに恋して」を執筆。子育てのゴールは親がいなくても生き抜く力を育むこと=自炊という信念。仕事は暮らし関連全般で多岐に渡るが一応料理家、「和食育こころ」主宰。誰でも簡単に作り置きできるおやつの著書もある。心地よく巡る暮らしの工夫をインスタグラムで毎日更新中。
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